『日本人が海外で最高の仕事をする方法』を読んだ。
コーチとしてご相談を受ける日本人英語学習者の中には、アメリカなど英語が第一言語の国(いわゆるInner Circle)に駐在中、または駐在が決定した段階という人がいる。
彼らは赴任先で初対面の現地社員たちを部下にもち、慣れない土地で人間関係をイチから構築していく。
もちろん日常の業務や、ご家族の引越し、お子さんの教育など、仕事や家庭での役割をこなしながら。
せめて英語の面でお手伝いができればと思う。
そういう背景から、私の身にふりかかることがないとはいえ、日本人の海外赴任と縁がないわけではない。
理解を深めるべく、そして今後のためにと思ってこの本を手にとった。
おもしろかった。
出来事の一つひとつに、「わかるなぁ」と思いながら読んだ。
著者のお人柄、相手の視点で自分を見る姿勢、全体と個別のバランス感覚、複雑で抽象的な物事を言語化し、よく伝わる方法で伝える能力。
終盤でコーチングの話題が出てくるのも大いにうなずける。
そして奥様が素晴らしい。
カッコいいご夫婦だなぁ。
以下、覚えておきたいことをメモ。
コミュニケーションにおいて重要なことは言語だけでしょうか。もちろん違います。いろいろな要素があるでしょうが、ここでは最も根本的なこととして、「関心」を挙げておきましょう。(pp. 24-5)
本書の副題は「スキルよりも大切なもの」。
本書の核となる考え方は、「人と人との関わりの先に、組織やビジネスがある」。
社内であれ取引先であれ、コミュニケーションの相手は「人」であり、自分も「人」である、ということ。
この当たり前すぎるほど当たり前のことを、英語や外国や忙しさに気をとられて、つい忘れてしまうのもまた、「人」なんだよな。
「外国暮らしは気楽」という人は、裏を返すと「日本にいるときの方が気を配っている」ということもあるからね。
(コミュニケーションの中で積極的に自分を見せること)は、語学に苦手意識のある人は特に留意すべき点です。言葉に自信がないと、人は自分を隠してしまいがちだからです。(p.116)
ふむ。なるほど。
うちに相談に来てくださる方はちょっと当てはまらない気がするけど、ま、なにしろオンラインでコーチに相談ができるようなタイプの人たちだからね。
赴任に限らず、留学でも帯同でも、そういうことが多いのかな。
赴任先の文化にもよりそう。
そもそも文化とは、人々がその感性や価値観や信条を長い時間をかけて積み上げ、洗練させ、凝縮したものです。ですから、「文化を知る」ことは「人を知る」ことと言えます。(p.156)
奇しくも今日はアメリカ独立記念日だけど、こういう現地の国民の祝日に参加したがらない赴任者、留学生は驚くほど多い。
まぁ、日頃現地の人たちとがっつり関わってストレス満載な中、「“せっかくの”休日ぐらい日本人だけで、日本語で過ごしたい」という気持ちもわからなくはない。
留学生の場合は、留学生どうし、それも多くの場合近隣国の出身者どうしで集まって、その日が滞在国の人々にとってどういう祝日だかよく知らないまま過ごす。
現地の人たちとの付き合いが浅ければイベントには招待されないし、招待されなければ参加のしようもないので、「行きたくてもツテがない」という言い訳が成立しやすい。
でも、結局のところ、そこなんだよな。
文化を知ろうと思えば、現地の人との深い付き合いを求めるようになるし、“せっかくの”イベントの日に機会をみすみす逃すようなことはしない。
特に大事なのは1年め。
最初の1年間で一通りイベントに出席しておくと、それ以降の生活の仕方が大きく違ってくるんだよねぇ。
不安があるのは赴任者だけではありません。受け入れる側の現地社員にも、異国から乗り込んでくる赴任者に対する不安があるわけです。(p.180)
このあたりは、たとえばアメリカの場合と、インドやベトナムなどアジアの場合とでは違いがありそう。
日本人に対するイメージ、国どうしの力関係が違うからね。
特にアメリカ人の場合は不安をあからさまに表現することはまずないし、日本人側が先に不安そうに見せてしまうことが多いので、相対的・反射的に相手が堂々としているように感じられる。
それでも、相手側に不安がまったくないわけはない。
マウンティングは必要ないけど、そこんところの心構え、器の大きさ、すっごく大事。
社内では英語が公用語となっていましたが、文化の理解・尊重の姿勢を示すためにもとベトナム語と同様、韓国語の勉強を始めました。(p.184)
くー。これは耳が痛い。
私は旅行者でしかないけど、ドイツに行ってもフランスに行っても、韓国に行っても台湾に行っても、英語ばっかり。
万が一、英語以外の言語の国に住むことになったら、著者を見習って心を改めることができるかしら。
人間ですからだれでも、目の前にいる人、特によく知っている人への処分は避けたい気持ちになるものです。厳しい処分を行うことで、反感を持たれたり、面倒を起こされたり、急に辞められたりしても困るという懸念も頭をよぎります。自分の赴任期間はもめごとが起こらないようにしたいという気持ちもあるでしょう。しかし、それらを恐れて処分を控えてしまっては、規律は定着しないどころか、今ある規律も壊れていってしまいます。(p.226)
これは教室における先生、家庭における親のみなさんも、肝に銘じたいところ。
日頃の信頼関係を大切に、愛をたっぷりもって、心を鬼にする。(参照)
海外での仕事を経験することの真の意義は、言葉が上手になるとか、海外慣れすることではなく、異文化・異観点・異条件に対応できるように自分と会社を変えていく力を身につけることなのです (p.247)
うん。
本当に。
糸木公廣. (2013). 日本人が海外で最高の仕事をする方法:スキルよりも大切なもの. 英治出版.