父と母の、2人暮らしのこと。
父が退職してから、父と母はいわば本格的な2人暮らしを初めて体験することになったのだが、このたび、それが第3段階に入ってきたのではないかと思う。
第1段階では、まず本人たちが、「がっつり2人暮らし」ということの意味を理解することが必要だった。
家にいる時間が増えた父は、ややはりきって家事を手伝いはじめた。
もともと、たとえば母が私のところに1ヶ月ぐらい滞在していても1人でなんとか暮らせるタイプだったので、父本人も、おそらく母も、「退職したら、家事を分担できるようになる」ぐらいに思っていたのだろう。
ところが、ところが。
父があれこれ手を出すことにより、母は長年ひとりで完璧に築いてきた空間を乱されることになった。
それでつい、「私がやるから、もう触らないで!」となる。
父にしてみれば、職場での地位から、まさかの急激な大転落。
役に立ちたい思いを満たそうとすれば母の機嫌を損ね、そのために自分も機嫌が悪くなる。
母にしてみれば、文句を言ったり叱ったりなど、不慣れなことづくしで疲れるし、そんな自分がイヤになる。
なんとも不健康な事態となった。
なんでもかんでも1人で背負い込みたがる母には、「仕事を分け与える」ということを学ぶ必要があった。
何をどう説明すると、上手に協力が得られて、お互いに気持ちよく暮らせるか理解し、練習してもらった。
父も母も、「いまさらそんなこと、言わなくてもわかるでしょ」という部分に、いろんな勘違いがあった。
そのへんを洗い出したあたりから、父と母の2人暮らしは第2段階に入り、掃除の曜日を話し合って決めたり、買い物のメモをきちんと書いたり、ルールを作ったりして、ま、多少事務的ではあるけど、生活がスムーズにまわるシステムができてきた。
でも、もちろんすべてが解決するわけじゃない。
父のちょっとした行動が母に「んもう!」と言わせ、それがうるさくなると父は聞き流し、また「んもう!」な事態を生む…という悪循環が起きていた。
それで、娘を相手に「聞いてよ!こないだもこんなことが…」と言いたくなる。
いや、聞くのは全然いいんだけどさ。
もうちょっとどうにかならないかなぁと思っていた。
そしてこの冬。
私の滞在中に起きた、ある衝撃的な「んもう!」をきっかけに、アイディアが浮かんだ。
「んもう!」な“現場”を写真に撮ってみたのだ。
父に見せてみると、自分のしでかしたことのおもしろさに大爆笑。
「んもう!」と言っていたはずの母もしゃがみこんで笑っている。
これだ。
「これから、こういう場面があったら写真を撮って、私に送ってよ」と母に頼んだ。
ちょうど、クリスマスプレゼントに贈ったiPadで写真を撮ったり、アルバムを見たり、画像をメールに添付したりがどうにかできるようになってきたところ。
「練習にもなるし、ね。」
で。
私がアメリカに戻って以来、週2ぐらいのペースで母から“激写”が届く。
よくそんな頻繁に発生するねとも思うが、さすが、これが密着取材というものなんだろう。
今日も朝イチで大いに笑わせてもらった。
母は最初のうちこそ、連写しちゃったり、同じメールを何通も送ってきちゃったりしていたけど、今ではすっかりスマートに撮って送れる人になった。
なにより、角度など、撮影のウデがめきめき上がっているし、キャプションも巧くなってきている。
驚くべき成長の速さ。
かつて「んもう!」と言っていた場面が、いまや「チャンス!」になって、ウキウキしてるんじゃないかと思う。
楽しく、明るく、おもしろく。
父と母の2人暮らしが新たな段階に入り、私も楽しみが増えた。