シン・アメリカ

就任式(参照)から6日が経過した日、アメリカに戻ってみた。

ワシントンのWomen’s March(参照)に参加してきた友人に、「ただいま新政権下のアメリカ合衆国に入国いたしました」とメッセージを送ったら、「おかえりなさい。出国した時とは違う国だけどね(Welcome back to the US. Not the same country you left.)」という返事が来た。

航空券を予約した時点ではまったく気にしていなかったが、このタイミングで、最初に降り立つ地がテキサスって、どうよ。
着陸前、機内で見たニュース速報によると、「壁」に関する計画が発表されたところだった。
粋な計らいと思っておこう。

「Good morning」と言われてようやく「あ、朝か」と気づくような状態。
お腹がすいているのかどうかもよくわからないので、ダイナーの入口でメニューを見上げていると、店長っぽいおっちゃんに声をかけられた。
「乗り継ぎまで、時間あるんだろ?食べてけよ」と言われ、すんなり従ってしまうあたり、頭がまわってないに違いないが、ま、いっか。
おかげで思いがけずフルーツたっぷりの朝食にありつけた。
ウェイトレスのおばちゃんが、あれこれ気遣ってくれる。

スペイン語訛りの英語アナウンスが聞こえてくる。
この国の、この州に住み、空港というとってもインターナショナルな場で働く人々は、たとえば「壁」のことをどう思っているんだろう。

ゲートに向かう前に、お茶屋に寄って、大きなカップにちゃんとした紅茶を淹れてもらう。
ヒジャブをかぶったおねえさんはテキパキした仕事ぶりで、私の注文した茶葉をポットに入れると同時に次のお客に声をかける。
常連らしいパイロットが「いやぁ、どうも喉にカエルがいるみたいでさ(Well, I seem to have a frog in my throat this morning)」と言うと、おねえさんは「じゃあ、これがいいですよ」とミント系のお茶を勧めた。

JFK空港に到着。
黒人のおじさんに発行してもらったチケットを、白人のおにいさんに渡し、中国人の運転手に荷物を預けて、都心へ向かうバスに乗る。
乗客はヨーロッパ人が多く、いろんな言語が飛び交っている。
スマホを操作しながら、翌日からの盛りだくさんな観光プランについて話し合っているようだ。
出発時に運転手が停車案内をすると、年配のヒスパニック系女性2人組が明らかに不安そうな様子を見せ、それに気づいたヨーロッパ人の若い女性が片言のスペイン語で助けていた。
数日後、この空港では大混乱が起きたわけだが(参照)、私が見たのはいたって普通の、いつもどおりのニューヨーク・シティの玄関口だった。

スーツケースを2つ引き連れて、地元の駅に到着。
あろうことか工事中のためエスカレーターもエレベーターも止まっていた。
「どうすっかー」と思っていると、どこからともなく現れたエリート風のおじさまが「1個、運びましょうか?」と声をかけてくれた。
途中できっと「あんなひょろひょろのアジア人の荷物が、こんなに重いとは」と驚いたに違いないが、おじさまは長い階段を上りきり、私のお礼に対してやや息を切らせながらも「My pleasure.」と言って去っていった。

タクシーの運転手は黒人男性。
私が日本から帰ってきたと聞くと、日本語の挨拶をいくつか披露し、自身の沖縄での駐留経験を語った。
日本も、その後に滞在したフィリピンも、良い想い出ばかりのようだ。
そして、「新大統領、どう思う?」と聞いてきたので、「それはこっちが聞きたいよ」と返すと、不満や非難が次々に出てきた。
「不安しかない。特に自分たちのような有色人種にとっては、これからどんどん悪くなる」。
まだ変化を感じているわけではないけど、「変化がすぐそこまで迫ってきている」と言う。
雰囲気を変えようと思って「この冬は雪が少ないみたいね」と言うと、「そう、暖かくって春みたいだよ」といったんは明るくなった。
が、すぐに「地球温暖化が真実だって証拠だよ。Chinese hoaxだなんて、あり得ない」となって、話題は戻ってしまった。

日本で昨年大ヒットした映画は観てないんだけど、「シン」をカタカナにしたのは、どんな漢字なのか観た人に判断してもらいたいから、という話だけは知っている。(参照

「新」「真」「神」「進」「伸」「信」「紳」「深」「慎」「心」「辛」「侵」「震」「疹」「呻」etc.
シン・アメリカの「シン」は、いったいどれになるんだろう。

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