「conference」の日本語訳について。
アメリカにいる日本人研究者と、日本の学会の話を日本語でしていたときのこと。
私が「XX学会のYY大会っていうのに行ったんだけどさぁ」と言ったら、「タイカイ?タイカイって何ですか?」とツッコミが入った。
ははぁ。
それまであんまり気にしてなかったけど、言われてみれば確かに。
「タイカイ」って何だろう。
関西では「ダイカイ」なのかしら。
「何かはわかんないけど、どうも日本では『全国大会』とか『(地名・地区・地域)大会』とかって言うみたいだよ」と答えた。
話すうちにだんだん「大会」という語のおかしさにハマってきて、二人とも笑いが止まらなくなった。
そうだよなぁ。
「大会」って、しかも「全国大会」とか「地区大会」って、どうしてもスポーツなどの競技会をイメージしてしまう。
英語でいうなら「competition」「contest」「tournament」「championship」とか、そのあたり。
かと思いきや、実態はあの研究者が集まる「conference」「convention」なわけで、その雰囲気のギャップがおっかしいのだ。
たとえば「今度の学会で発表する」「先日、学会でお目にかかった」のような日本語は普通に通じているような気がする。
アメリカにいる日本人など、英語がわかる人、つまり「学会」を「conference」に置き換えて理解できる人限定のような気もしないでもないが、少なくとも私の周りでは「conference」の日本語訳として「学会」というのは一般的に通用しているように思う。
ウィキペディア(参照)もだいたいその路線で考えているように見えるが、これは英語からの翻訳の可能性が高いので、一般の日本人の感覚と合っているのかどうか微妙。
というのも、グーグルによると、研究分野に関わらず、日本の「conference」は「大会」であると思われるような結果が出てきてしまうからだ。(参照1 参照2)
この感じからすると、「学会」は「conference」ではなく、「society」など「組織・団体」のことっぽい。
で、改めてウィキペディアを読み進めたら、なんと「組織・団体」の方の「学会」が、「集会」の「学会」とは別に存在することがわかった。(参照)
「曖昧さ回避」(参照)って、イヤイヤ、「曖昧さ」じゃなくて「紛らわしさ」でしょ。
まったく別のものに、日本独自で同じ名前をつけちゃった、ってだけじゃん?
詳しいことはわからなかったので私の勝手な推測だが、昔の研究者が外国で見かけた組織や発表の場を日本に持ち込む際に、あんまりよく考えないで名付けちゃったんじゃないかなぁ。
「society」「association」の方は、規模などの細かい区別には触れず、一括りで「学問をやる人たちが組織する(“野鳥の会”のような)会」の意味で「学会」とし、「conference」の方は「学術的な発表をしたり、研究者が交流するために集まる(“お茶会”のような)会」の意味で「学会」としたんじゃないかしら。
どっちも最初と最後の文字を取って「学会」ではあるんだけど、なにしろ元々の意味は違うんだから、しかも近い場所で同じ語が頻繁に使われるんだから、誰かなんとかしようと思わなかったのかね。
で、誰もなんともしようとしないうちに、すっかり定着して、「学会」は基本的には「組織 (society)」と「集会 (conference)」の両方に使えるんだけど、「組織の集会」のような並びになってしまう場合には、「組織」の方を優先させて「学会」をそちらに譲り、「集会」の方は代わりに「大会」を名乗る、ということなんじゃないだろうか。
このあたり、「オオモノを前にしたときは一歩下がってふわっと気配を消す」という日本的な、ニンジャのような礼儀の表れでしょうかね。
「conference」が日本人だったら、「普段は畏れ多くも同じ名前を使わせていただいておりますが、本日のようにsociety様の御前ではとてもとても…」ってな感じかしら。
「組織の集会」に対する処理の少数派として、「組織」の方に「学会」を使わせない例もあるようだけど、その場合も「集会」の方が「じゃ、余ってんなら私が」とはならず、やっぱり身を引いて「大会」と名を変え、「ソサイエティ大会」(参照)ってなことになったりするみたい。
「conference」と「society」が「学会」をはさんで、「どうぞどうぞ」「いえいえ、そういうわけには」と譲り合い、「じゃ、お互いに使わないってことで」となったのかしら。
ちなみに、「集会」の方のウェブページのURLを拾うと、「/conference/」(参照)「/convention/」(参照)の他、「/meeting/」(参照)「/taikai/」(参照)などが使われている。
「/gakkai/」(参照)ってとこも、あるにはある。
このあたりを調べると、組織内の英語の使用度とか、関係者の英語力とか、あんまり暴いちゃいけないかもしれないデリケートな何かが見えてきたりするかもね。
ってか、不便じゃないのかなぁ。
「conference」を「研究発表会」と呼んでいる組織もあるみたいだけど、それだとちょっと子どもっぽいし、「シンポジウム」より小さい雰囲気があるよね。
それに、「大会」って、どうもね。
発表者の中に、「地方大会を勝ち抜いて、全国大会に進むぞ!」とか「研究大会で優勝するぞ!」とか、なんかズレた意気込みの人が出てきちゃいそうじゃん?
言葉の影響って意外と大きいんだから。
他の、英語があんまり得意じゃないかもしれない分野の組織はともかく、英語関係の組織は「conference」と「society」の違いを知っているだろうに。
率先して訳し分けて、他の分野の人たちを紛らわしさから解放してあげればいいのに。
「なにぶん、昔からそうと決まっておりまして…」とか、「他分野との兼ね合いもいろいろありまして…」とか、そういうことかしら。
もしそうだとしたら、そういう体質と、外国語や異文化の教育を推進することを両立させるのって、大変でしょうね。