他大学の他分野の学部生のクラスでゲスト講師をやってきた。
友人の心理学者Kが教える学部生向けのクラスを1日だけ任されることになった。
親しい友人の依頼だし、「ちょっと厳しくても苦しくても、なるべく断らないキャンペーン」実施中なので、つべこべ言わずに受けることにした。
コース名はCross-Cultural Psychology。
日本語では「異文化間(または比較文化)心理学」というらしい。
事前にシラバスを送ってもらったが、いかんせん学部生向けなので内容がさっぱりしすぎていてあんまり参考にならない。
Kからは「好きなようにやっていいよ」と言われていた。
彼女としては、学生が自分以外の講師から、ナマの情報を得て学ぶ機会を作るのが最大の目的。
「異文化に住んで、言語やコミュニケーションの研究を第二言語でやっている人の話を直接聞くだけでも、学生にとっては価値がある」と言ってくれるので、半分は真に受けて気楽に、残りの半分はプレッシャーを感じていた。
「好きなように」とはいっても、やはりコースの趣旨に沿って、少しでも学ぶ意義のある内容を提供したい。
授業スケジュールを見たところ、ちょうど2週間前に異文化間コミュニケーションにおける顔の動き、表情について学んだところのようなので、手持ちのデータから表情やジェスチャーに特徴があるものを選んで、それを軸に話を組み立てることにした。
ちょうどその会話では「地元にいるうちは英語が話せない人に会ったこともなかった」というアメリカ人が日本人英語学習者を相手に、彼女なりのアメリカ文化紹介をしている場面もあるので、彼女と同世代の学部生で、彼女ほどではないにしろ外国人との関わりが少ない今回のオーディエンスにはピッタリ。
そして今朝、40分ほど車を飛ばしS大学へ。
Kにオフィスとキャンパスを軽く案内してもらい、教室に入った。
続いて入ってくる学生たちは全体的に落ち着いた雰囲気。
これがここの校風なのか、心理学の300番台のクラスだからなのかはわからない。
4月2週目、学期も終盤なので、Kがここまでに作り上げてきた学生との関係性が透けて見える。
友人が今日はプロの顔をしている。
そんな感じで学生たちもKも協力的なので、授業自体は終始、いたって和やかだった。
ところどころ、狙いどおりの箇所で笑いが起きるなど、まぁ想定の範囲内に収まった。
「アメリカ人日本語学習者だったら」とか「アメリカ人の批判はしたくないけど」とか、“身内”ならではの見解も出てきておもしろかった。
熱心にメモをとってくれていたのは冒頭でKが「今日の講義で習ったことを期末テストに出すかもよ」と予告したせいだと思うが、それにしても、話の途中でうなづいたり表情を変えたり、学生たちはよく反応してくれるし、質問やコメントもたくさん出てディスカッションも盛り上がり、あっという間に時間が過ぎた。
よかったよかった。
学生たちは後日、この講義の感想を提出することが義務付けられているらしいので、彼らが何を感じ、どう考えたか読ませてもらえる。
怖いけど、楽しみ。
ESLで英語という言語を教えるのでもなく、TESOLの大学院生に理論を教えるのでもなく、学会で専門の近い研究者を前に発表をするのでもなく。
考えてみると、学問という括りの範囲内で、非母語話者や言語学習とあまり縁のない人を相手に文化や言語の話をする機会なんてなかなかない。
貴重な経験をさせてもらった。
感謝。