おばちゃん

京都で、あるおばちゃんと出会った。

ケガして帰国して、翌朝から病院通い。
その翌日には京都へ行くことが決まっていた。
キャンセルも考えたが、少し無理をして決行。
唇の腫れと頬の絆創膏は大きめのマスクで隠す。

京都駅からJRに乗った。
すでに電車がホームに入っていたので、すぐ出発するのかと思ってやや急いで近いドアから乗り込んだ。
座席はほとんど埋まっていたが、この足で揺れる車内に立っているのは危ないので、ドア近くの補助シートの通路側に座った。

座ってみると、出発時間までずいぶんある。
そっか、始発駅か。
シロート丸出し。

そして階段付近のこのドアからは、次々と人が乗ってくることがわかった。
その中に、おばちゃん2人組がいた。
私の投げ出した足をよけるようにして乗ってこられたので、できる限り寄せて「すみません」と言うと、おばちゃんはヒザの包帯に気づいたのか「大丈夫、大丈夫」と言った。

「はー、乗れた乗れた」「立ってたら運動になるからええねん」で始まった2人の会話は途切れるということがない。
家族の話、近所の人の話、どこかの施設の話など、中身はないけどテンポの良い会話が続く中、憧れのネイティブ関西弁をふんだんに浴びる贅沢を味わう。
アクセント的にもキャラ的にも、京都の人じゃなさそう。

出発時間が近づき、車内はますます混んできた。
おぉぉ。
久々のニッポンの満員電車。
どうしていいか、わからない。

すると私の前に少し距離を置いて立っていたおばちゃんが、後ろの人に押されてこちらへグッと近づいてきた。
おばちゃんは私の顔の横に両手をつき、いわゆる“壁ドン”の体勢をとった。
おばちゃんの顔が、私の顔の前に。
そして私に「ごめんな。でも、男やないから、ええやんな」と言って笑った。
隣にいたお友達のおばちゃんも笑った。

どうしていいかわからないので、うつむきながら「あ、や、すみません」みたいな感じで返したら、突然、おばちゃんは両手で私の顔を包んでグイッと自分の方を向け、「あははははー」と笑いながら、手のひらを交互に、上下に動かして、私のほっぺをシャカシャカシャカーとやった。

えぇぇぇぇ?
そして、はわわわわ。
顔の傷は擦られて痛むようなものじゃないからいいけど、とにかくビックリ。
日本ってこんな国だったっけ?

その後もおばちゃんたちは何事もなかったかのように、私の頭の上で止まらないおしゃべりを続けていたが、私はこみ上げてくる笑いを抑えるのに必死。
知らないおばちゃんに、突然の壁ドンからの、顔シャカシャカって。
あり得ない。
おもしろすぎる。

まもなく降りる駅に着き、おばちゃんに声をかけて“ガード”を解いてもらった。
「気ぃつけてな。さようなら」という言葉にお礼を言って電車を降りた。

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