CliffsNotes

CliffsNotes(参照)という、”Study Guide”と呼ばれているらしいものについて。

見たことないものについて書くってあんまりしないんだけど、たまにはいっか。

事の発端は、新学期準備のころ、友人がFacebookに載せていたグチ/苦情。
彼女は今学期初めて文学を教えることになったのだが、そのコースの学生用に注文した教科書に、書店側が勝手にCliffsNotes を付けて販売していることがわかった、という。
彼女や周辺の文学関係者の反応はいずれも「CliffsNotes、本当やめてほしいよね」という感じだった。

私はそのとき初めてCliffsNotes というものの存在を知り、興味をもったのだが、その直後に友人に会ったときにはその話をするのを忘れていた。
で、ようやく昨日、チャンスが巡ってきた。
しかも幸運なことに、他にも文学者が数名居合わせていたので、ざっくり、みなさんの意見を取材することができた。

全体的に、文学そのものをやっている人として「CliffsNotes を文学教育に使うなんてあり得ない」という反応だった。
CliffsNotes のもたらす害悪としては、それがあることで
・学生は元の作品を読まなくなる
・解釈するという最も重要なプロセスを踏まなくなる
・CliffsNotes に書いてあることが“答え”だと思ってしまう
などということらしい。
こうした否定的な意見を文学者の総意と考えてまず間違いないんだってさ。

たとえるなら、映画を見る代わりにネット上の評論を拾い読みして満足するようなもの。
「登場人物や話の筋などはどうでもいいのに、学生はそこばかりを追うようになってしまう」。
なるほどね。
まぁそれは文学に限らず、どの教科でも起きていること。

「それでも、ある程度以上の人気や“伝統”があるんだから、教育的利用価値がないってことはないんじゃないの?」と聞いてみた。
たとえばFlipped Classroom的な使い方はできないのかな、と。
一部には「先に解釈を提示して、そこから思考させる方法はアリだと思う」という意見もあったが、「それにしても、良くない回答例を見せて、『こうならないようにしましょう』というのは、遠回りで無駄」というのが優勢のようだった。
ふーん。

特におもしろいと思ったのは、彼らはCliffsNotes の存在を知りつつも、内容についてはほとんど知らないということだった。
「何が書かれているか、見たこともない」というのは、むしろちょっと優れたことのように表現されている気がした。
私なら、学生たちがどんなメガネを通して自分の専門を見ているか、書店がどんな理由でCliffsNotes を支持しているか、知らずにはいられない気がするけど、それは教育の人特有の職業病なのかしらね。

それを踏まえて、CliffsNotes のサイトを見てみた。
やはり文学が特に充実しているようだが、生物学や社会学など、他教科のガイドもかなりある。
教員用の紹介ページもある(参照)。
そして彼らの軸足はSATやGREなど、テスト対策にあるようだ(参照)。
なーるーほーどーねー。
Cram Planシリーズなんかは、力入れて作ってそうだ。

だいたいの雰囲気がつかめたので、ぜひ中身を見てみたいのだが、あいにく私が見てポイントがわかりそうな分野のものがない。
この国では言語学習はカネの生らない木だからなぁ。
そういえば、日本ではコレ系のガイドを山ほど見るし、アメリカでも外国語学習のガイドは普通にあって、日本語の”Study Guide”は見かけたらつい立ち読みしちゃうけど、ESL のガイドって、見たことない。
Grammar(参照)とかは文学のガイドと意味が違う。
アメリカで、ESLのCliffsNotes を読んで、英語ペラペラになったつもりになっている学習者がいたら、それはそれでおもしろいよね。

そして感慨深いのは、中学高校では教科書ガイド、大学では先輩からいただいたカンニングペーパーだけを頼りに不真面目を貫き、いいかげんに乗り切ってきた私が、ちょっと違う立場でCliffsNotes に触れたこと。
そうか、私が「CliffsNotes 完全否定」に違和感を覚えるのは、この「人のこと言えない」のせいだな。

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