Learning Community

PhDなMOOCの受講生たちの手間のかからな具合に感心する。

このMOOCに関して私は単なる一受講生で、しかも参加クオリティ的にはミニマムな通りすがり程度の立場。
それでも、つい運営側に目が行く。
この受講生たちが“うちのコ”だったら、と考える。
職業病。

このMOOCには他の多くの講座と違う点がいくつかある。
一つは、知識教授型でないこと。
テーマがテーマなだけに、「ゼロからガッツリ知る」タイプではない。
知識という点では、すでになんとなく知っていることを整理したり、知らなくても困らないことを趣味程度に見聞きする感じ。
講座の主な目的は、受講生間で経験談などを共有し、「自分だけじゃないんだ」と安心したり、それぞれが自分に必要な情報を拾って、自己を見つめ直すきっかけにすることなのではないかと思う。
その意味で、これは「大規模集団カウンセリング」風。
Cをもう1個足して、MOOCC かしらね。

もう一つは、受講生たちが“±PhD”であるということ。
修士の学生や博士に入りたての人から、どっぷり博士課程の人、博士号を取ったばかりの人、そしてPhD学生を育てる人まで。
そりゃ中にいる人の目には「幅広く」見えるけど、一般的には「みんな同じようなもん」というところだろう。
この受講生がhomogenous だということが功を奏している部分がかなりあると思う。

とにかく受講生たちのデキがいい。
勝手に動いて、邪魔にならない。
手間がかからない。
これ、講座やイベントを運営したことのある人なら、どんなに貴重で素晴らしいことか、よくわかると思う。

特に目立つところをまとめると、以下の4つぐらいかな。

1. 発信する情報量をしっかり削れる。
たとえば講師が出す課題。
読み物やビデオなどの必修部分は、ちょっと物足りないぐらい軽い。
あとは「ご自由にどうぞ」という感じで、補足資料がほぼ無限に入手できるように置いてある。
その影響からか、受講生からの投稿や返信も、読む側の負担にならない書き方をしてくれているものが多い。
これには、書き手の書く力が非常に高いこと、受講者たちの聞く・読み取る能力、リテラシーが高いこと、発信者たちが主張を効果的に聞かせる訓練を受けていること、などの言語コミュニケーション的要素が大いに関係しているが、より重要なのは、参加者に余裕があるという点だろうと思う。

彼らにはそれぞれの専門分野、持ち場がある。
そういう場をきちんと持つ人は、ヨソで知識をひけらかしたり、見栄を張ったり、独断的になったりする必要がない。
ここでやりとりされる情報は、氷山の一角どころか、氷山の頂上のひとかけらであることをわきまえている。
どっしり構え、一粒で満足できる寛容さを備えている。

また、受講生はそれぞれものすごく忙しいはずなので、発信者は受信者の時間価値に配慮した発信の仕方をする。
ダラダラと長い投稿をして、読む側をうんざりさせるのは、彼らのプライド的にも許せないところがあるかもしれない。

2. メインとそれ以外の区別が上手。
これは1.ととても近いことだが、彼らは論点をキープするのがうまい。
言語コミュニケーション力が高く、議論に慣れていて、おそらくはマズイ議論の経験もかなりあるのだろう。
いわゆる自転車置き場(参照)や雑談を排除せず、かつそれらに勢力を持たせないようなコントロールができる。
この動きも、参加者に余裕があるからこそのものだろう。

3. 誰に何を尋ねるか、わかっている。
これは上の落ち着きや時間価値にも関わるところだが、彼らは疑問や質問の処理がとても上手。
ポイントを明確にして答えやすいように下ごしらえした質問を、答えてくれそうな人や場所を選んでピンポイントで投げる。
自分でも何が聞きたいのかわからないけど、やみくもに手当たり次第とりあえず質問してみて、望んだ答えが得られなかったら「チッ、使えねー」ってなことには決してならない。

4. 自分がどう動いたら皆にどういいか、わかっている。
たとえばFacebook Group。
受講生は専門や居住地などを元に、勝手にグループ活動を始めた。
特に成功しているのはシニアな受講生たち。
“older wise learners (年長の賢明な学習者たち)”略してOWLs という、賢さの象徴フクロウにかけた粋な名前で、活発に、ほがらかに活動している。

受講生の中には他の受講生を積極的に助ける人が出てきた。
すると運営側は彼らを“Community TA”に任命して肩書きを与え、サポート体制がさらに強いものになった。

こうした動きが自然に発生するというのは、参加者それぞれが貢献するという意識を持っているからだろう。
“You can’t succeed coming to the potluck with only a fork.”
手ぶらでやってきて、「さぁ、どう楽しませてくださるのかな?」なんて“お客様”な態度をしていては、良いコミュニティの一員になれない。

このような優秀で手間のかからない参加者たちが積極的にいいものを作ろうと協力して動くというのは、ほとんど魔法のようなことだ。
このMOOC はまもなく第7週が終わるところだが、運営側の雰囲気からして、かなり成功しているのだと思う。

もちろん、こうした受講生は厳しい目を持ってもいるので、講座の内容がつまらなければ容赦なく離れていくだろう。
提供されているものの質が高いことは言うまでもない。

いやぁ、実にいいものを見せてもらっている。

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