日本のカスタマーサービスを利用して、いろんなことを考える。
各種の切り替え時期にあって、日本のいろんな会社で手続きをする必要があった。
その中で印象的だったカスタマーサービス3つ。
1つめは、電話会社。
ペーパーレス化でとうとう紙の請求書が有料になるというので、母に頼まれてオンラインへの変更手続きを代行した。
登録フォームの入力で、「英数字は全角」と要求されて驚いた。
今どき、まだこんなのあるの。
何か特別な、最先端の技術的理由があるのかと、思わず調べてしまったが、そういうことではなさそう(参照1 参照2)。
気持ち悪いなぁと思いながら入力。
…で、終わるかと思ったら終わらなくて、また驚かされた。
ここから先は「約30日程度で郵送されるはがきのご案内をご確認ください」だそうだ。
嘘でしょ、と思ったけど、ホント。
15日ほどして、開くタイプのはがきが届いた。
そこに書かれた仮パスワードでログインして、パスワードを変更して、ようやく手続きが完了した。
日本人なら誰でも知っている電話会社では、最先端の研究をしている人もいる一方で、未開拓のジャングルみたいな部署もあるようだ。
2つめと3つめは、電話受付。
ところで私はオペレータ経験が多少あるのと、言語やコミュニケーションを専門にしているので、カスタマーサービスに対する“気になるフィルター”の目が細かい。
そして気になったうえで、“アメリカ式の客”(参照)を心がけているのと、コミュニケーション・ポイントの共有(参照)という観点から、特に質の低いカスタマーサービスに出会ったときに、こちらからいかに多くのポイントを提供して、結果的に“良い”カスタマーサービスに変えられるか、試す。
そうやって日々、自分のコミュニケーション能力を鍛えている。
2つめは、アメリカのソフトウェア会社の日本法人。
オペレータは中国語ネイティブの女性だった。
ほほぉ、そうきたか。
私は非ネイティブが話す日本語に出会うと、自動的にできるだけ単純な構文、平易な単語、短い文ではっきり話す癖がある。
「Teacherese 出てるなぁ」と思いながら話す。
オペレータの日本語は間違いなく上級に属するものだが、返事のバリエーションが少なく、抑揚が中国語的なので、日本語基準では失礼にあたる場合もある、というレベル。
この対応で、あのうるさい日本の客は怒らないのかな。
外国人が相手だと、優しくなれるのかな。
そんなことを考えながら用件を伝える。
込み入った話になってくると、ちょっとツライ。
でも、まぁネイティブ日本語話者にありがちな、言葉づらだけ丁寧で中身がカラッポの対応よりはいいかな。
このやり取りは一回で完結せず、1人目のオペレータに聞いたことを行って、後日、再度電話をかけ直すことになった。
2人目のオペレータも中国語ネイティブだった。
ま、少なくとも同じ一次対応のオペレータで、ネイティブと非ネイティブを混ぜるのは得策ではないだろうから、おそらく全員、中国語ネイティブで揃えているのだろう。
1人目と2人目のオペレータの日本語能力は同程度。
この2回目の電話で1人目のオペレータの誤案内が発覚して、私は思いがけず得をすることになってしまったが、ずいぶんあっさりと要求が通ったので、おそらくこのくらいのミスは許容範囲なのだろう。
非ネイティブを使ってコストを抑えつつ、ネイティブを雇用する場合とは別のコストがかかるんでしょうね。
3つめは、アメリカの銀行の日本法人。
私は長年この銀行を使っているが、店頭でも電話でも、いつもとても気持ちの良い対応をしてくれるのが気に入っている。
おそらく行員の多くが英語を使い、外国人との会話に慣れているので、組織全体の言語コミュニケーション能力が高いのだろう。
英語的な組み立てで、きれいな日本語を話すので、私好みなのだ。
ハズレがない。
しかし、今回はちょっと引っかかった。
第一声のトーンからして、私が知るこの銀行のオペレータとは違うものだった。
説明が長く、聞いてもいないことを早口でどんどん話すのも、“クッション言葉”を一切入れないのも特徴的。
日本のうるさい客ならきっと「上から」と形容する話し方。
言葉づかいから察するに、日本語ネイティブではあるが、日常的に英語を使っている人なのだろうと思う。
日本時間の夜だったので、アメリカにつながったのかもしれない。
ここは持てる限りの“アメリカ式の客”スキルを動員して、オペレータ様のゴキゲンを窺いつつ、こちらの用件を小分けにして、それだけに絞って伝える。
使っている言語は日本語のまま、やり取りのモードを日本式からアメリカ式へ切り替えるというわけ。
とにかく間違いなく手続きをしていただければ結構。
それ以上は求めない。
24時間受付を実現するため、時差やコストを考慮して、外国にオペレータを置く会社は多い。
英語の場合、たとえばアメリカでカスタマーサービスを利用すれば、ほぼインドへつながる。
日本語の場合はまだそこまでのシステムが確立していない。
在外の日本語対応オペレータに対して、初期の研修では日本国内と同じマニュアルを使っているだろうけど、独り立ちした後、随時、上役が対応をチェックしたり、オペレータ同士で情報交換をしたりというところまでは手が回っていないんだろうな。
新旧も言語もごちゃ混ぜで、いろんな要素が複雑に絡み合いながら、世の中は変化している。
グローバル化の波によって、日本のぬるま湯体質や「お客様は神様」文化も変わるかな。