やっと読めた。
『絶望名人カフカの人生論』。
先に読んだ母から、「きっと好きだよ」「すぐ読めちゃうよ」と言われていたのだが、なかなか手にとれず、ずいぶんと寝かせてしまっていた。
読み始めたらあっという間だった。
もー、すごい。
こんなに好みにピッタリ合った本、初めて。
装丁もフォントも、章ごとの黒いページもいい。
なにこのカバーの座り込む姿、背中、そして表紙のとぼとぼ歩いているような、固まっているような立ち姿。
最高。
ちなみにこの絶妙な絶望具合は、続編でさらにパワーアップしているらしい(参照)。
この本に関わった人は全員、カフカいじりに夢中だね。
愛を感じる。
そしてその愛が溢れに溢れているのが、編訳者の頭木弘樹さん(参照)。
愛があるからこその突き放しっぷり、呆れっぷり。
厳しめのツッコミ。
日本語がこれだけ巧いので、おそらくドイツ語もよくおわかりなのだろう。
そして去り際に現代をシャッと斬っていく。
カッコいい。
参考文献の紹介など細部にまで気遣いがあるあたり、隅々までもれなく読んじゃう病の私にはありがたい。
老舗の和風旅館に一泊したような気分になった。
唯一、残念だったのは「……最後に」。
そういうの、要らないでしょ。
それまでカフカのことだけを考えて生き生きしていたつくり手たちが、急に一般読者を意識してヨソイキの顔を見せたようでガッカリしちゃった。
それにしてもカフカという人は、とても真面目で、(本人は「ない」と言うけど)自信があって、情熱的で、愛情が深くて、優しい人だったんだね。
そして、見事としか言いようがないこじらせ体質。
口が悪い。
頑固。
究極の面倒くさいヤツ。
皆が愛してやまないのがよくわかる。
私は彼のようなこじらせ要素が欠けているので、恨みつらみに関しては共感できなかった。
それから彼が結婚や仕事、食、健康に対して強い望みや欲求を持っていたことは意外だった。
でも、暗いところ、ネガティブなところ、やる気がないところ、疲れやすいところ、「できない」だらけなところなどは、私のとって超ツボ。
ニヤニヤしたり、笑っちゃったり、うなづいたりしながら読み進めた。
特に私が撃ち抜かれたのは、これ。
「ぼくは真っ直ぐに伸ばした身体を草の中に沈めながら、社会的地位から追い落とされていることの喜びを感じました。」(p.124)
清々しい。
フランツ・カフカ 著、頭木弘樹 編訳 (2011). 絶望名人 カフカの人生論. 飛鳥新社.