『吉野弘詩集』

『吉野弘詩集』を読んだ。

母からの小包に入っていた新聞の切り抜きで、吉野弘の詩をはじめて知った。

いい言葉をじっくり味わいたい気分だったので、タイミングとしてちょうどよかった。
「いい言葉」というのは、気立ての良さとか、ぬくもりを持った言葉のこと。
丁寧で、落ち着いた、深みのある言葉のこと。

スペースや句読点や余白まで大事に読みたかったので、全編を声に出して、少しずつ、ゆっくり読んだ。
この本は、気をつけないとさっさと読めてしまうのだけど、それではもったいない。

好きな詩をいくつか引用しておこう。
まずは「漢字遊び」から3つ。

「裏」の中に「表」があります
裏を見れば表もわかるのが世の常
「表」だけに目を凝らしても、その中に
「裏」を読み取ることはできません
(『表裏』 pp.178-9)

「正」は「一」と「止」から出来ています。
信念の独走を「一度、思い止まる」のが
「正」ということでしょうか。
正しさを振りかざす御仁ほど
自分を顧みようとする資質を欠いているようです。
正義漢がふえると、揉め事もふえるのは
そのためです。
(『「止」戯歌』 pp.181-2 より抜粋)

自我を折ることが出来て
初めて祈ることが出来る
(『折と祈』 p.191)

そして、やっぱりこれ。

やさしい心の持主は
いつでもどこでも
われにもあらず受難者となる。
何故って
やさしい心の持主は
他人のつらさを自分のつらさのように
感じるから。
やさしい心に責められながら
娘はどこまでゆけるだろう。
下唇を噛んで
つらい気持で
美しい夕焼けも見ないで。
(『夕焼け』 pp.75-7 より抜粋)

吉野弘. (1999). 吉野弘詩集. 角川春樹事務所.

「『吉野弘詩集』」への2件のフィードバック

  1. 吉野弘さんは、私と同郷です。
    『夕焼け』はぐっとくるものがあります。

  2. 私も、「あぁ、takさんと同郷の方なんだ」と思ってました。
    素敵なご縁ですね。

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