夜の力

夜の、恐ろしい力について。

夜には不思議な力がある。
それは健康な状態の人であれば気づくことさえないほどの微弱なもの。
普段は見過ごされていて、ごくたまに、たとえば妖艶なスパイスや、ロマンチックな香りづけとして認識される程度。

だけど、体が衰弱しているときや、精神的に過敏になっているときなどには、夜の持つ力の前に、人はただただ圧倒され、どうすることもできない。
夜に怯え、叫び、泣き、逃げ惑う。
壊れてしまいそうなギリギリのところで、何かにしがみついて、震えながら、一刻も早く夜が去るのを待つ。

あるいは夜はそういう人を見つけるのが上手で、狙い定めて近づき、そぉっと這入ってきて、獲物を捕らえて初めて猛威を振るうのかもしれない。

夜に捕まってしまったら、「絶対に負けない」という気力だけが頼り。
それを保てる者だけが、夜に負けずに朝を迎える。

夜の力を感知しないで済む。
そんななんでもない日常の幸せを、ありがたく思う。

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