“Math Fact“についていただいたご意見をうけ、「伝わってないかも」と思うところがあったので補足。
「要するに『暗算』でしょ?」という反応がいくつかあった。
いや、翻訳としては『暗算』でも悪くないんだけどさ。
そこには”Yield” という標識を『徐行』と訳すような「見た目は似てるけど内容が違うんだよ」が発生している。
“Math Fact” のポイントは、「暗算=頭で計算する」ってことじゃなくて、「答えも含めて丸ごと覚える」ということ。
となると日本ではやっぱり九九ぐらいしかない。
ここが伝わりにくかったというのは、日本人的には、たし算ひき算なら「丸暗記するより計算した方が速い」と思うからだろう。
今回の所見の対象者である、渡米してまだ数ヶ月の日本人の子が実際にやっていることは、おそらく「暗算」なのだ。
でも、計算問題を次々に素早く解いていくその姿は、アメリカ人の先生の目には、「(答えを含めて丸暗記した)”Math Fact” の知識が豊富」と映った…というわけ。
クラスではMental Math を習っていないのかもしれないし、習っていたとしても、解答速度があまりにも速く、アメリカ基準では年齢に見合わないために、先生は計算しているとは思わなかったのかもしれない。
それにしても、同じ様子を日本人の先生が見たら、まず間違いなく「計算が速い」という褒め方をするだろう。
「計算を暗記する」という発想そのものが、日本人にはないのかもな。
九九や公式など、覚えることがないわけじゃないけど、算数・数学を“暗記科目”と言う人は少ない。
一方、英語を“暗記科目”と言う人は結構いる。
日本の英語の授業はSpontaneous な部分が少なく、「台本どおり」「判で押したような応答」の反復練習が多いし、受験生は“出る単・出る熟”を覚えまくるから、そういうイメージがついてしまうんだろう。
スピーチにしても丸暗記で臨む人は多い。
その姿勢のまま語や決まり文句をいくら暗記しても、英語が使えるようにはならないだろうねぇ。
そもそも、“暗記科目”って何じゃい。
そんな科目はないよ。
「理屈抜きで覚えちゃったほうが早い」という部分はどの科目にもあるけど、暗記で乗り切れる科目なんてあるわけないじゃん。
暗記中心の“勉強”に疑問を投げかけることもなく、むしろ速く、巧くやるテクニックを開発、伝授し、それを身に付けることを“勉強”と名づけて売っている受験産業界の責任は重い。
日本人が英語を学習するにあたり、暗記に頼るべき部分は極めて少ない。
記憶力が弱く、暗記が大の苦手で、辞書の同じところを何度も引いてしまう私が断言する。
外国語学習には時間がかかるし、できたりできなかったりを行ったり来たりするものなので、即答を求めず、気長に学習に取り組み、一問多答式の考え方ができる人の方が向いている。
ま、外国語に限らず、学習なんて何でもそうだけど。
その意味で、「暗記で乗り切る」という姿勢は学習の対極にあり、学習の邪魔になるのではないかとさえ思う。