“Math Fact” って、日本で習う?
日本語で何て言う?
保護者会や試験の通訳でお手伝いに行く小学校から、学期末のReport Card (保護者宛に送る先生の所見)の翻訳を依頼された。
で、そこに出てきたのが”Math Fact”。
“Math Fact”とは、たとえば、「2+3=5, 3+2=5, 5-2=3, 5-3=2」というような感じで「2」と「3」と「5」の関係性を”Fact” として覚えてしまうと、いちいち指で数えたり、計算するまでもなくパッと答えが出せるという“早解きワザ”みたいなもの(参照1:参照2)。
かけ算だと「九九」をイメージしてもらえばいいんだけど、たし算、ひき算、わり算にはこういうのはないよね。
訳としては「暗算」が近いかなぁ。
ネット上では”Math Fact”で検索するとわんさかヒットするが、日本語の記述でこれに触れているものは、ほとんどない。
これ、日本の学校では習わないような気がする。
そもそも日本の子は全般に計算が速く、特に一桁のたし算ひき算に関しては、パッと見ただけで答えを出す訓練をわりと自然にやっていて、学校で”Math Fact” なんて大仰な名前をつけて習う必要がなさそうだもん。
…とは思いつつ、もしかしたら私が知らないだけで、「XXの法則」みたいな呼び名があるのかもしれない。
そこで、アメリカで日本人向けの家庭教師をしている人、日本の学校の先生、赤ペン先生、現役小学生のママなど、友人を頼って聞いてみた。
結果、やっぱりなさそう。
一桁のたし算ひき算がパッとできるなんてのは、日本では当たり前とされているのだろう。
そろばんとか暗算ゲームで鍛えられて、もっと桁数の多いのでもパパッと計算できちゃうもんねぇ。
これにて一件落着、なのだが、ついでに最新算数教育事情として、いくつか情報をもらったので、さらっと内容を見てみた。
百ます計算(参照)に陰山メソッド(参照)、岩波メソッド ゴースト暗算(参照)。
なるほどね。
反復練習によってニューロンのつながりを強化すること、視覚に訴えて記憶を定着させること、ゲーム感覚で学習者のやる気を促進すること、など、どれも脳的に理に適っている。
これは売れるわ。
ただ、ね。
やっぱり日本の教育はまだ“処理能力の高さ”が、イコール頭の良さだと思ってるんだなぁ。
確かにこれらのやり方で能力を高めていけば、受験に強く、計算が速く、記憶力の強い人は養成できる。
でも、すでに世の中は「そういうことじゃないんだよ」と言ってるでしょう。
今の子どもたちが大人になる頃のこと、真剣に考えてるのかなぁ。
それとも、日本にはそういう移行は訪れないのかな。
エライ人たちが自らの栄光を守るためにも頑張って阻止するのかな。
世界の流れに取り残されようとも、コンピュータの処理能力がどんなに上がろうとも、日本だけは「処理能力の高い人材を量産すること」をあいかわらず教育の目的として据え続けていくのかな。
法律では違うことを言ってたような気がするけど(参照)。
日本の子がアメリカへ渡ってくると、しばらくの間は「算数が得意な子」になる。
答えをパパッと出すのが、まるで魔法使いみたいで、一瞬ヒーローになれる。
でも、「答えにたどり着くまでの経過を論理的に説明する」というところでつまづく。
機械的、無意識的に、即座に正解を出す習慣がついてしまうと、意識的にじっくり考え、正解のない問いに取り組むことが難しくなる。
深い思考と論理的説明を苦手とする人に、ヒーローの座を保つことはできない。
15歳にもなると日本人は世界一の数学ギライになっちゃうというデータもある(参照)。
『試験や大学受験という外圧がなくなった途端,メリメリと剥がれ落ちてしまう「偽」の学力』。
うん、わかる気がする。
日本の英語教育もなかなかだけど、算数・数学教育も、本気でやろうと思うと大変そうだな。