子どもを持つということ。
持たないということ。
作家の川上未映子さんがこう言っていた。
「子どもを持ってしまったら見られない風景があるんじゃないかな」。
「子どもという特別な他者を持たないからこそ得られる、磨き抜かれた視線というものがあるとすれば、それは子どもを生んでしまった私から永遠に失われた」。
そうなのだ。
子どもを生んだ女性と生まない女性。
二つの世界にはそれぞれに素晴らしいところと、耐え難いほど辛いところがある。
メディアが垂れ流す情報を鵜呑みにしていると、あたかも両方の良いところを手に入れることが可能であるかのような幻想に陥るが、そんなことは絶対に不可能なのだ。
子どもを持つ人には持つ人の、持たない人には持たない人の人生がある。
両方のいいとこどりはできないが、幸いなことに、両方の辛いとこどりもしなくて済む。
ひとりっこの私が子どもを持たないために、子ども好きの両親に孫を持つ喜びを与えられない。
命のつながりを止めてしまう責任が私にはある。
その呵責も、その他の哀しみも寂しさも、ぜんぶ抱えて私は生きていく。
そうして私にしか見えない風景を見に行く。