虚学

「虚学で身を立ててみせたい」と言う人に会った。

学問の分類にはいろいろな切り口がある。
文系・理系や人文・社会・自然、基礎科学・応用科学などのほか、実学・虚学という分け方もある(参照)。

実学とは社会的ニーズが強く、高い経済的貢献に直結するような学問領域のこと。
「役に立つ」と表現されることが多いようだが、私は役に立たない学問などないという考えなので、これは不適切だと思う。
「就活で見栄えが良い」とか「すぐカネになる」と言ったほうがはるかにわかりやすいし、正確だろう。

虚学はその逆。
就活で武器になりにくく、カネにつながらない。
趣味とか道楽の延長と誤解されることの多い領域。

「虚学」の英訳に’soft sciences’ を充てている辞書があったが(参照)、これは納得できない。
ちなみに同じ辞書によると「実学」は’practical science’、’hard science’ は「自然科学」。
…もう放っとこう。

そもそも「実学・虚学」という分類は、学問の分野について言っているのではないと思う。
あらゆる学問分野には実学的要素があり、虚学的要素がある。
分野により、どちらかの要素がより濃く出やすいが、一つの分野内にも研究者による違いもあれば、研究者個人の中での葛藤もあってしかるべきだろう。
人間のやることは、そうスパッと割り切れたりしないのだ。

それはともかく。
冒頭の台詞を吐いたのはある文学研究者の卵。
自分のやっていることを「虚学」と言い切り、実学優勢の世の中に挑戦状を叩きつけるというわけだ。
かっこいい。

安定志向で、楽して儲けることが高く評価され、「得か、損か」「時給に換算するといくらになるか」と、効率を求めるばかりで本質を見失いがちな現代日本。
多くの若者が時代に流され、巻き込まれるままに、“得策”と誰かが言った道をただ進んでいく。
若者たちは大人の計画に沿って育ったにすぎないのに、けしかけた側の大人たちは無責任に若者を非難する。
「教育が悪い」「変えなければ」と大げさに騒いでみせる。

その環境にあっても、いや、だからこそ、こんなふうに育つヤツがいるんだね。
「虚学で身を立ててみせたい」。
いいぞ、いいぞ。

これだから人間に関わることはおもしろい。

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