私の字幕翻訳を「解釈が正確で日本語表現が的確」と評価していただいた。
濃い霧の中、まだ遠い先を目指して、成功するのか、完成するのかわからないままに、とにかく進むしかない、というような状況が長く続くと、精神的なバランスをとるためにも、短期で決着のつく、あからさまに生産的なことがしたくなる。
「できるのかな…どうなのかな…ダメなのかな…」じゃなくて、「やってみよう→やってみた→できた」みたいなこと。
そして、これは私の性格的な事情だけど、自分のためにいろんな人を巻き込んで動いてもらい、あちこちでお願いばかりしていると、そういう自分本位な自分にうんざりして、嫌になってくる。
罪滅ぼしというのか、誰かに喜んでもらえるような、どこかで役に立っているんだと実感できるようなことがしたくなる。
さらに、本来苦手な「私」を前面に押し出すことに疲れている。
私は“マイナス注目欲”(参照)が非常に強いので、私の名前の下に行うことには積極的に取り組めない。
そんなときに字幕翻訳はうってつけ。
着手して数日のうちに作品として完成し、世に出すことができる。
すると大勢の人がそれを見てくれる。
翻訳者は黒衣なので、見る人たちは気にも留めない。
最高。
というわけで先日のデビュー作(参照)に続き、他の人が訳したものをチェックするReviewをやってみた。
で、この2本の仕事を見てくれたManagerに、冒頭のお褒めの言葉をいただいた。
他に「講演者の口調に訳が合っている」とも。
私は読むのに時間がかかるし、会話における聞き手としては、相手がタジタジするほど質問をしてしまう。
ディテールやニュアンスにこだわって、何でもじっくり精読・精聴する癖がついている。
読み取る・聞き取ることに関して、完璧主義と言ってもいいと思う。
あえて良く言うなら、情報を丁寧に掬いあげ、丹念に意味を解読するのに長けているってこと。
が、量とスピードが求められる世の中では、これを評価してもらえる場面は極めて少ない。
ナナメ読みで多読ができ、広く浅い情報をたくさん持っているほうが、見栄えがよく、効率が良いとされている。
私自身「もっと速く読めたら」「もっとさらっと会話できたら」と思うこともある。
それを経験豊富な言語のプロに、長所として見つけてもらえたというのはとてもうれしい。
日英二言語を慎重かつ客観的に扱い、勝手な思い込みや飛躍を極力排除するよう求められるこの仕事では、私のネガティブで現実主義でドライで気の長いところが有効に機能するのだろう。
そういえば褒められるということも、今の私の生活にはない要素だ。
研究面では指摘を受け、試され、おしりを叩かれ、突き放され、”愛のムチ”によってビシバシ鍛えられている段階だからね。
短期決戦で手ごたえがあり、誰かの役に立ち、注目はされず職人的な自己満足を満たす…と、それだけでも私にとっては十分なストレス解消になるというのに、おまけにその道のプロに認めてもらえるなんて。
足りていなかったものを詰め合わせでプレゼントされた気分。
これはハマるよ。