国際バカロレア

「国際バカロレア、日本語でも取得可能に」(参照)。
えーと、これはどう理解すればいいんだ?

国際バカロレア(International Baccalaureate: IB)については、ひとまず代表として文科省発信のものを引いておく(参照)。
その中身や日本の教育との折り合いについては、いずれまた別の機会に考えるとして。

文科省は今年3月、今後5年間で日本国内のIB認定校を200校に増やすという目標を発表した(参照)。
これは、高校生の留学経験者を「3万人規模に」拡大するという計画とともに、平成24年度の新規事業としての施策目標(参照)に明記されている。
すごい意気込みだね。

で、7月にはIBの一部を日本語で教えてもいいか、国際バカロレア機構(IBO)にお伺いを立てた。

なぜか各所で引用されている『教育ニュース』より抜粋(参照)。

-------------------------------

日本の高校で国際バカロレアの認定校が増えれば、海外大学への進学や海外留学が増加することは確実です。しかし認定校になるには、原則としてすべての授業を英語・フランス語・スペイン語のいずれかの言語で実施することが求められており、日本の高校で認定校を増やすのは簡単ではありません。このため文科省は、カリキュラムの一部を日本語でも受けられるよう同機構との調整に入りました。実現すれば、ドイツ語・中国語に次いで国際バカロレアの6番目の言語になります。

-------------------------------

えーと。
ツッコミどころ満載なのだが、とりあえずまとめてみると、
海外に留学する学生を増やしたい
→そのためにIB認定校を増やす
→「すべての授業を英・仏・西語」では対応しきれない
→じゃあ日本語でOKになるように頼んでみよう
ということだと言うのね?

文科省は「5年間でIB認定校を200校に」という目標が、このままでは実現不可能だと気づいた、ってことかい?

200という数字については、帰国子女の数から割り出したとか、センター試験受験者数の1%と考えたとか、(人口比率などは無視して)他所の国のIB認定校数を参考にしたとか、なんとなくそれっぽい噂はあるものの、確固たる根拠は見当たらない。
まさか日本国の文科省ともあろう組織が、生徒数を見積もることで頭がいっぱいで、「誰が教えるか」「教員は何人必要か」という重要項目を議論し忘れてた…なんてことはないでしょうけど。

高度な教科内容を、IBのカリキュラムに沿って、英語などの外国語で教えられる人材が日本に多くないことは、素人でもすぐわかる。
実際、現在すでにIBを実施している学校でも、教員の確保は悩みの種だと聞く。

認定校からの加盟費を見込むIBOにとって、文科省の“お願い”はさほど複雑な検討を要しない案件だろうと思う。
で、晴れてIBに日本語の参入許可が下りたとしても、教員確保の問題は解決しない。

「国際バカロレア、日本語でも取得可能に」というのは、意図的に誤解を招くように作られた見出しで、気をつけないと、日本語だけでIBが取れるかのように聞こえる。
実際そう誤解して「結局英語はできないままになるじゃないか」「本末転倒」と反論している人もいる。
が、日本語が使えるのはあくまでも「一部科目」。
ドイツ語や中国語がどのような条件下で許可されているかわからないが、日本語が許可される範囲はおそらくかなり限定され、メインになるのはIBO指定言語、日本の場合はまず間違いなく英語だろう。

各校に1クラスずつIB実施クラスを設置するとして、認定校数×教科担当者と『知識の理論(TOK)』などの指導者が必要。
たとえば県単位などで数校かけもちさせるとしても、相当な数の教員が必要になる。
そのうちのほとんどを英語ネイティブでまかなう可能性が高い。

昨今の行政は民間への外注がお好きだから、今ある英会話学校から『IB派遣講師』が続々誕生するのかもしれない。
英会話学校はまたひと儲けできそうだね。
ALTの数を必死で増やしたら質が低下したという歴史は、こういうときに参考にはならないのかな。

現役の教員にIBカリキュラムを担当させるとしても、IB要員を新規採用するとしても、みっちり研修が必要になる。
日本の学習指導要領の下で育ってきた人たちが、IBの趣旨を理解し、すんなり切り替えられるとは思えないから、いろーんな問題が生じるだろうね。

でも、まぁどうにかこうにか200校用意できたとして。
肝心の、「海外に留学する学生を増やしたい」だけどね。
うーん、残念ながらそう簡単には増えないんじゃないかな。

確かにIB課程を修了したほうが、海外の大学へ進みやすくなるから、IB認定校から輩出される留学生は増える。
が、そのほとんどは帰国子女や現行のIB非認定校から留学を目指す学生など、もともと留学する可能性の高い、既存の集団と重なるわけで、IBがきっかけで初めて留学に目覚める、いわゆる普通の高校生からの“新規開拓”数はさほど見込めないのではないかと思う。

むしろ増えるのは、IB課程を修了したものの、統一試験に合格できず、大学入学資格が取れない“IB浪人”や、拡大しつつある“IB入試”を利用して日本の大学へ進む“IB修了生”。
そうこうしているうちにIBO本部から査察が入り、認定取り消し校が続出するかもね。
あーあ。

積極的なIBカリキュラム導入自体は試す価値アリだと思うけど、起点にも終点にも数字を置いちゃうから、訳のわかんないことになるんだよ。
置くべきはきちんとした教育理念じゃないの?

たとえば留学支援がしたいなら、IBは留学を希望する生徒にとって、より近道となる選択肢を与えることになる。
留学先で学業上の文化の壁を感じずに済むから、留学生として成功する可能性が高まる。
質の高い留学生を送り込むことによって、日本の教育レベルの高さを世界にアピールし、信用を得る。
そういう教育的目標を着実に達成しようとするなら、じっくりと教員を養成し、システムを整えようという発想になるんじゃないかな。
急ごしらえで認定校を増やそうとして、慌ててIBOに「日本語でもいいですかね?」なんて聞きに行っているようじゃ、先が思いやられるよ。

そもそも「海外留学が目標」ってどうなんでしょ。
送り出すだけ出して、その後は?

たとえば「国際的に活躍できる人物を日本国内で育成する」ぐらいの気概をもって、日本語版IBカリキュラムを作ってはどうだろう。
IBの理念や履修教科、授業形態などを採用してすべて日本語で指導する。
留学と切り離して考えるなら、外国語でやる必要はないし、現行のカリキュラムに教科単位で導入することも可能。
あるいはお家芸のガラパゴスで、IBをベースに独自のカリキュラムを作ってもいい。
IBを部分的に採用するだけでも、多角的なものの見方、活発な意見交換、他との協調などを経験し、論理的な思考法やプレゼンテーションの仕方を国際基準で学ぶことができる。

これらのスキルは、たとえ日本国内から一歩も出ない人生を送る人にも、必ずどこかで役に立つ。
海外に行くつもりなどなかった高校生が、国際的なスキルを身につけたことで、外国に興味を持ち、挑戦を始めるかもしれない。
そしたら意外にも文科省の狙う“新規開拓”につながっちゃうかもよ。
おめでと。

「海外に留学する学生を増やしたい」は、「日本人の英語力を伸ばしたい」の姉妹品。
それらの上位にある大目標は「国際交流の推進・グローバル人材の育成」だったはずだ(参照)。

若者たちがはっきりとした目標を持ち、やる気と実力を備えたら、英語なんてあとからちょいと上乗せすればいい。
ヤツらは放っておいても勉強するよ。
で、結果として海外に出て行くもよし。
行って、知識や技術を貪欲に身につけて帰ってくるもよし。
行った先で重宝がられて貢献し続けるもよし。
出て行かないで、入ってきたものに的確に対応する技を磨くもよし。
人やモノが日本へ流入してくるよう仕向けてもよし。
そういう頼もしい日本人が増えればいいんじゃないの?

なにしろ裕福な国なので、道具を買い揃える用意は常にある。
世界の商人たちの口車に乗せられて衝動買いするのは仕方がない。
せめて買った道具は持ち腐れにしないように、少しでも有効な使い方ができるように、がんばってほしい。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です