『日本人の9割に英語はいらない』

やっと読めた。
『日本人の9割に英語はいらない』。

「英語業界のカモになるな!」
「英語ができても、バカはバカ。」
「英会話に時間とお金を投資するなんてムダ」
本を開く前から挑戦的なコピーが続々。
早く読みたくてウズウズしていた。

聞くところによるとこの本はかなり話題になって、セールス的には上々らしい。
あいかわらず刺激物はよく売れるねぇ。
著者の本業は売れるモノを作ることのようだから、その道でのセンスが良いことは、この本の出版においても実績として証明されたのだろう。

アマゾンその他に賛否両論の読者レビューがたくさんあるので、気になる人はそちらを参照して、「ま、読むまでもないか」と思ったらいい。
それでも読みたかったら読んだらいい。

英語教育に関わる者として感想を述べるなら、この本で英語教育論を戦わせるのは無理があるなぁということ。
繰り返すがモノを売ってお金を儲ける商売人が書いた本だからね。
読むほうもそのつもりで読まないと。

断っておくが私は著者の意見を基本的に支持している。
1割かどうかは知らないが、少数の英語エリートを養成し、それ以外の人たちを現在の英語コンプレックスというか、呪縛から解放してあげたいと強く思っている。
日本企業の社内公用語に英語を採用することも、中途半端な幼児向け英語教育も、すぐに止めてもらいたい。
英語より優先して学ぶべきことはいくらでもあると思うし、上記に引いたコピーや各章の見出しの多くには「いいぞいいぞ!」と拍手を送りたいぐらいだ。

だからこそ、こういう過激な方法で、専門外の人が書いた“英語教育を語る風な本”が売れてしまうことが、残念で仕方がない。
「私の場合は、耳がいいのかもしれない」(p.189)という、いわゆる“英語耳”的発言や、日常・ビジネス・一般英会話のカテゴリー分け(pp.191-2)を見るだけでも、著者の英語教育についての知識が十分でないことがわかる。

本書で“日本の英語教育”として批判されている内容(p.18)は、今日実際に教室で行われているものに比べるとかなり情報が古い。
おそらく1955年生まれの著者が中学生だった頃の英語教育のことを言っているのであろうと思う。

「日本人にとっての外国語は英語以外でもよいはず」という主張は悪くないが、いかにも表面的な比較言語論を軽々しく持ち出すのは逆効果。
そもそもビジネスマンである著者は、良くも悪くも英語が現在の世界共通語であり、他の言語では代替できないという事実をよーく知っているのである。
最終章で“英語学習法”を提案するのなら、もうちょっと念入りに伏線を張っておくべきだった。

著者本人は特に英会話を習った経験がないとのことだが、“英会話屋さん”の実情にはそこそこ詳しそうだ。
通訳に対しての評価が高いところを見ると、通訳の特殊で厳しい訓練についてもある程度ご存知なのかもしれない。
惜しいのは英語教育に詳しい人の助けを借りることができず、その分野でのウラが取れていない点だ。
もっとも、この手の本を書くのに積極的に協力してくれる英語のセンセイや専門家を探すのは容易ではないだろうね。

ひと言ご相談くだされば加担したのに。
薄っぺらなカネ儲けの話には乗れないけどね。
いずれにせよ、せっかくやるなら徹底的に攻撃しなくちゃダメですよ。

というわけでオススメ度★☆☆。

成毛眞. (2011). 日本人の9割に英語はいらない:英語業界のカモになるな! 祥伝社

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