“「窮屈さ」8位”

“日本の「窮屈さ」8位”という、見出しが魅力的なだけの雑なニュースについて。

どこかの誰かが書いてばら撒いて、新聞各社が鵜呑みにしてそのまま載せている内容は以下のとおり。

社会に厳しい規範があり、逸脱すると罰を与えられるような文化の「窮屈さ」について、世界33カ国・地域で調査したところ、日本の窮屈さは8位という結果が出た。米メリーランド大や東京大などの研究チームが、27日付の米科学誌サイエンスに発表した。
地震や水害など自然災害の頻度や人口密度など、社会が受けるさまざまな脅威が順位に影響しているという。
最も窮屈という結果が出たのはパキスタン。
Source

これに、“日本の「窮屈さ」8位:災害の多さ影響か”などという見出しがついているから、まるでこの研究は、世界中の人に「窮屈な国といえばどこでしょう?」とアンケートをとった結果、「いやー震災もあったし、やっぱ日本かな」と答えた人が多かった、と伝えているように見える。
いわば“窮屈な国ランキング”。

そんな研究があるかいな。
ましてそんなものがサイエンス誌に載るかいな。
というわけで論文を読んでみた。

論文の題は、Differences between tight and loose cultures『タイト(きっちり)文化とルーズ(ゆるゆる)文化の違い』。
つまり前提として世界の文化を大きく二分し、その違いを調査したもの。
TightとLooseは調査のためのinstrumentであって、両者の間に優劣の関係はない。
『窮屈』などという明らかにネガティブな含意を持つ訳語は不適当。

タイト・ルーズの対比については、なにもこの研究チームが初めて紹介した概念ではない。
論文中にはPelto (1968)、Barry et al. (1959)、Berry (1979)など、タイト・ルーズ文化比較研究が引いてある。
資源に乏しく、人口が多く、農耕を中心に生活する民族は厳しいルールを持たざるを得ないし、逆に豊かで人口が少ない狩猟民族社会では、ルールはゆるめになっている。
このあたりのことは、外国の情報が簡単に手に入る現代では、私のような一般人でも「だいたいそうだろね」と思う。

とにかく、『タイトvs.ルーズ』は文化の違いとして確立している、という前提がないと、この研究は意味を成さない。
私たち日本人は「あぁ、うちはタイトに属するな」と知ったうえで、話を聞かないといけない。
「窮屈な国といえばどこでしょう?」とは全然ちがう。
ちなみにデータにはTightness Scoreとして数値が示されているが、順位はつけられていない。
意味がないからね。
“8位”は記者が並べ替えて数えたのだろう。

この研究の目的は、”how tightness-looseness operates in modern nations”「そのタイト・ルーズは現代ではどう作用してるんだ?」ということを解き明かすこと。
“how ecological, historical, and institutional factors, along with everyday situations and psychological processes, together constitute cultural systems” (p. 1101)
「環境・歴史・制度上の要因が、日常的な状況や心理プロセスとあいまって、どのように文化システムを構成するか」を示すこと。

アンケート調査→統計分析の結果、『タイトvs.ルーズ』の違いが生じる要因として、人口密度や紛争・自然災害・資源の欠乏・疾病など、環境的歴史的なThreat(「脅威」…というか恐れや心配のこと)と、政府・メディア・教育・法律・宗教など、社会政治的な制度が挙げられている。
で、理論展開としては、それぞれの文化で異なる要因に基づいて作られた規範・基準の厳しさや、逸脱に対する反応には違いがあり(そりゃそうだ)、それが日常的な状況の構造や制限に違いをもたらし(そりゃそうだ)、人々の心理にも影響している(そりゃそうだ)…となっており、違いは一元的でないことを示している。
論文の最後には、”Understanding tight and loose cultures is critical for fostering cross-cultural coordination in a world of increasing global interdependence” (p. 1104)「タイト・ルーズ文化について理解することは、相互依存が増大している現代世界において国際協調を育むために非常に重要」と、まぁありきたりではあるけど大切なimplicationが記されている。

“日本の「窮屈さ」8位:災害の多さ影響か”。
こんな見出しでまとめられて、調査に関わった日本の研究者たちは抗議しないのかしら。

Reference
Gelfand, M. J. et al. (2011). Differences between tight and loose cultures: A 33-nation study. Science 332(6033), 1100-1104.

「“「窮屈さ」8位”」への4件のフィードバック

  1. Vanityさんちから飛んでまいりました、初めまして。
    これはひどいですね(..;) Tightの訳語が窮屈しか無い辞書だったんですよ、きっと。。。最初から結論ありき、にしては「災害の多さ影響か」などと曖昧な書き方ですが。
    「数字を出すと一人歩きするから気をつけろ」というのは上司にレポートを出すときによく言われる話。しかし学術論文で統計処理したら数字が出て当たり前です。それを勝手に順位付けされたのではたまった物ではありません。
    英語読めなくてもこの記事書けますね(笑)。

  2. >Laffyさん
    はじめまして。コメントありがとうございます。
    「英語読めなくても」…確かにそうですね。Abstractどころか、題さえ読まず、数値だけ見るから“8位”という発想になったのでしょう。その数値を載せている表は"Sample characteristics" (サンプル特性)で、論文としてはイントロの部分なのに、記事では『結果』呼ばわりですから。仕事が粗すぎます。

  3.  これで原語がわかりました。ありがとうございます。
     アメリカで統計も学ばせてもらったことがある身としては、あちらの統計学者は統計の限界なんて百も承知だということ。日本の記者とかそこらへんもでたらめなの多いですしね。
     なんでもいいから耳目を集めれば勝ちというのは露出趣味者と一緒で気に喰わないです。アカデミックな話はアカデミックに取り扱っていただかないといけないと思います。

  4. >Vanityさん
    お役に立てたならよかったです。
    統計が得意な人を育てるのも、でたらめな記者を撲滅するのも至難の業です。キャッチーなだけの軽薄な商売も増えるばかり。だとすれば、消費者側で胡散臭い情報を嗅ぎ分け、踊らされないようにするしかないのかなぁと思います。このエントリーを書く際にざっくり検索したところ、ニュースに対して慎重な姿勢をみせていらっしゃるのはVanityさんしか見つかりませんでした。残念なことです。

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