日本式サービス×アメリカ式の客。
これ本当にいいコンビネーションだと思う。
本来サービスをする側とされる側の力関係は対等であるべきなんだろうけど、現実にはなかなかそうはいかない。
以前からここやここなどでたびたび指摘しているとおり、日本では『お客様は神様』が基本だけど、アメリカではどちらかというと提供者優位。
だからアメリカの客は最低限のサービスにもとりあえず満足できるし、それ以上のことを提供されれば大いに賞賛する。
『神様』どころかむしろその逆もある。
NYCなんかだと客に向かって怒鳴る店員とかいるし。
「来るな」という権利が店側にあるからね。
アメリカ式サービスでイザコザがあると、多くの場合、客の方が折れる。
しかし、アメリカにも黙っていられない客はいる。
先日、ある地元の弁護士が、人気レストランの対応にクレームをつけてもめたことを、自身のブログに載せたところ大論争が起きた。
ランチタイムにレストランを利用し、会計をしようとした弁護士の財布から$50紙幣2枚が滑り落ち、ダクトに吸い込まれていった。
店員にダクトを開けるよう頼んだが店主は不在で、対応した店員は「できない」の一点張り。
腹が立ったのでチップの$2を取り上げて無言で立ち去った。
で、ブログに「あの店はひどい、行くな」と書いた。
するとその記事が噂になって店主の耳に入り、「$100小切手をやるから謝罪しに来い」と言ってきた。
弁護士の主張は「接客がなっていない。自分は真実を書いただけなのに謝罪しろとは何事だ。なんだったらもっと騒いでもよかったが我慢してやった。$100なんてくれてやる」。
それに対してレストランを長年つかっている地元住民は、「客としてお前の態度が悪い」と猛反発。
ランチの忙しいときにダクトなんて開けられるわけがない。
紙幣を落としたのは自己責任なのに、勝手にキレてたった$2のチップを奪うとはまるでコドモ。
まして落とした証拠もないのに$100を払うと言ってくれている店主の申し出を断るなんて、さすがは弁護士サマだな…etc.
それを受けて弁護士はレストランに関する資料を集め、ダクトの衛生管理について保健所の指導が入っているという情報を引っ張り出してきた。
「だから開けたがらなかったのだろう」と。
それがまた“レストランのファン”たちの怒りを呼び、「こんなクレームをつけて店をつぶす気か」「このご時勢にクリーニング代を削って経営している店はいくらでもある。揚げ足をとるな」「$100クリーニング代として寄付しとけ」と店側を徹底的に擁護。
弁護士はかろうじて反論を続けているが、どうやらファンたちの方が優勢。
街のレストランを街のみんなで守る。
やっぱりアメリカ人は『集団>個』の集団主義に見える。
正当性は多数決では決められないけど、でもこうしてクレーマーやモンスターの芽が摘まれるわけで、最近の日本人はアメリカ式のサービスに対する考え方を見て、ちょっと我が身を振り返るといいかもと思う。
とはいえ客が泣き寝入りしていると店側がつけあがり、サービスを向上させる努力をしなかったり、悪質なサービスを平気で提供できるようになってしまう。
先に書いた怒鳴る店員とかね。
日本式サービスの完全無欠で過剰に高いクオリティは厳しい客によって育てられた、という言い方もできる。
しかし最近の日本式の客は減点法や監視ばかりで、サービスを育てようなどとはしていない。
むしろ最高級のサービスでさえ当たり前ととらえ、感謝も感動もできないほど客としての質が低下している。
ところで、昨今のおせち騒動は、よりによって日本文化の核みたいなおせちという商品を使って、日本式サービスの信用を脅かす事件だった。
今回ばかりは世論もマスコミも政治家も一丸となって“敵”をやっつけるようなので、日本式サービスはひとまず守られていくのだろう。
欲を言えば『一丸』じゃなくて、行政とサービス提供者は日本式を貫き、消費者、特にマスコミはクレーマー駆除に向いてくれると、世の中は平和になるんだろうけどねぇ。
日本式に提供してアメリカ式に受け取る。
私はこれを心がけるようになってから、めっきり嫌な目に遭わなくなった。