クリスマス商戦

Black Friday=『クリスマス』商戦初日、という日本語訳について。

年末の小売業の書き入れ時を『クリスマス』商戦と呼び、さらにその呼び方を異国の文化を伝えるために使うのは、ちょっとまずいんじゃないかと思う。

Black Fridayがどういう日か知るためには、まずThanksgivingを知らなければならない。
日本ではなぜかほぼ無名の祝日だが、アメリカでは一年でいちばん大切な日。
日本でいう元日。
もしアメリカを知るために365日のうち1日だけを選ぶなら、Thanksgivingだろうと思う。

『感謝祭』と訳してしまうと農家のお祭りっぽくなってちょっと違う気がするけど、Thanksgivingはアメリカに最初にやってきたPilgrimが、前年の冬に助けてくれた先住民を招いて、翌年の秋、ごちそうしてもてなしたことに始まる。
発祥がPilgrimである以上、もともとは宗教行事だったが、現在では宗教色はほぼなくなっている。
家族を中心に友人らと食卓を囲む日。

前日のスーパーは日本の大晦日のデパ地下状態で、大きなカートに山盛りの食料を買い込む人でごった返す。
全国的な帰省の交通渋滞が起きる。
Thanksgiving当日はほとんどの店が閉まる。
ディナーをする家には午後の明るいうちから、親戚などが手土産を持って集まる。
みんなでのんびりダラダラごちそうを食べながら、おしゃべりしたりフットボールや映画を見たり。
Black Fridayはその翌日の大安売りで、夜明け前から目玉商品を狙って店の前に行列ができる。
日本人がお正月におせちを食べながら駅伝かラグビーを見て、福袋を買いに行くのに本当によく似ている。

アメリカ国民みんなが一斉に祝える祝日は非常に少ない。
街のあちこちにツリーが飾られていると、つい「全員クリスチャン」と思ってしまうかもしれないが、クリスマスが宗教行事なのは言うまでもない。
だからアメリカでは日本ほど”Merry Christmas”を使わず、年末の挨拶には”Happy Holidays”と言うのが一般的。
“Chrismakwanzakkah”なんて、いろんな宗教行事を混ぜてニュートラルにするやり方もある。

宗教に関係なくみんなでThanksgivingを祝った翌日、その流れで一斉に買い物に行くのがBlack Fridayなのだ。
“Christmas shopping”という言い方も確かにあって、それが日本語訳の『クリスマス』商戦につながるのだろうけど、クリスマスを祝わない人はクリスマスプレゼントを買わないのだから、やっぱり「全米を挙げてクリスマス商戦」という報道には違和感がある。

それにBlack Fridayに買うのは贈り物ばかりではなく、むしろ自分使いのものの方が多いように思う。
もし秋に家具や家電を買い換えたくなったら、「Thanksgivingの後にしよう」という発想になるから、そのへんは日本で言う冬のボーナスに近い感覚ではないだろうか。

お歳暮や正月用品を用意するのと近い時期に、偶然にも恋人や家族とプレゼントを交換する日がある。
新年に向けて新しく買い揃えたいものも出てくる。
普段はつましくしている人も財布のひもがいくらか緩む。
そこへ小売業が大きなセールを当ててくることを『クリスマス』商戦と呼ぶのは、日本の中でだってヘンでしょう?

せめて『歳末』商戦にしとこうよ。

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