母が『平成中村座試演会』に行ってきた。
そもそものきっかけは、私が数年前からフラれ続けている『法界坊』を、またしても見逃さざるを得なくなったこと。
帰国中のチケット発売日にも、「行けるものなら…」と口惜しい思いをしていた。
「せっかく日本にいるんだから行ったら?」と、前々から母にも勧めていたのだが、「なんとなく敷居が高い」とか言って動かない。
まぁ本人が乗り気じゃないなら仕方がない、と諦めていた。
ところが新聞だかなんだかで情報を見つけ、突然、「試演会っていうのに行ってみたい」と連絡が来た。
おう、任せとき。
すぐにチケットを手配して送った。
で、先日その公演に行ってきた母から、興奮気味のメールが届いた。
すっかり歌舞伎にハマった様子。
んもう、言わんこっちゃない。
その会場でのあるエピソード。
試演会というのは若手俳優が、そのキャリアでは考えられないほどの大役に挑むという粋なイベント。
オトナの遊び心と歌舞伎界の懐の深さを感じる。
ところが。
“口を大きく開けてしゃべろうとしているのに、どうにもしゃべれない”という芝居の途中で、客席から「聞こえないぞ!」という声が飛んだそうだ。
その後も同じような場面で、「しっかりしろ!」「声が出てないぞ!」と怒鳴る客。
姿は見えないものの、声の主周辺では「そういう芝居なんだ」となだめる声もあったとか。
会場全体がざわついた。
勘違いはともかく、演者が大物俳優だったなら、または若手の公演だと知らなかったら、客はそんな声を上げなかっただろうと思うと、とても腹立たしい。
しかし芝居は滞りなく進み、拍手喝采で幕が下りた。
続いて『おたのしみ座談会』。
歌舞伎界を代表する錚々たる顔ぶれが登場し、試演会の裏話などをおもしろおかしくしゃべった。
稽古をつけずっと見守ってきた若手の芝居。
自分が舞台に立つ方がよっぽど気楽だろう。
「ほっとした」と親心を見せる勘三郎。
「よくやってくれました。ひどい野次にも負けないで」。
会場がドッと笑う。
「あんな酷い野次はないよ」。
特設小屋が割れんばかりの拍手に包まれた。
何か言ってくれるだろうとは思ったけど、さすが。しびれるね。