機内

飛行機にはちょこちょこ乗るが、隣り合わせた人と話すことはめったにない。

人見知りをしないので間違えられやすいが、そもそも私は知らない人に自ら話しかけるということをしない。

国内線の近距離なら、良くも悪くも短時間なのでどうってことないが、10時間を越える長距離移動は旅というより生活っぽいところがあるので、ご近所づきあいはつかず離れず、挨拶程度に留めておくことにしている。

フィリピン人の多い中、今回は珍しく日本人が隣になった。
いつものように3人がけの通路側に座っていると、10歳ぐらいの女の子とそのお母さんが乗ってきた。

女の子は乗客の流れに押され窓側に追いやられた。
お母さんが棚に荷物を上げている間に、立っていた私が彼女のコートを棚にしまってあげたのだが、女の子はきちんとお礼も言えてしっかりしているし、お母さんも感じのよい方だった。

エコノミーの狭い座席では、こうした荷物の出し入れや食事の前後、席を立つときなど、隣の人との声かけは避けられない。
また時には入国書類などについてお手伝いすることもある。
そのくらいのことは全然構わないが、基本的に私は素っ気ない。
特にアメリカへ向かう機内では個人的にかなりブルーなので、正直、話をする心の余裕がない。

女の子とお母さんは、飛行機にも英語にもいくらか慣れた様子。
とても仲良しな母娘で、おしゃべりしたり本を見せ合ったりしていた。
機内食も「ひと口食べる?」「おいしいね」と、楽しそうにやっていた。

年に2往復もしていると、機内を快適に過ごす術もすっかり定着している私は、いつものように機体が安定したらスリッパに履き替え、食事は消化のよいものだけを選んで食べ、温かいお茶をたっぷり飲んで、歯磨き、パック、マッサージを済ませて仮眠をとった。

数時間後、目が覚めると、女の子はお母さんの方に足を伸ばして寝ていた。
お母さんもウトウトしている様子だった。

私がトイレに立ったのに合わせて起こされたのか、二人もトイレに行った。

トイレから戻ってくると、女の子の顔色が悪い。
窓際の席にぐったり倒れこむように座ったが、明らかにつらそうだった。

私も機内食にやられた経験があるので、よくわかる。
起きるなり具合が悪くなるのだ。
気圧などの関係もあるのかもしれないけど、出発までの疲れで消化器官が弱っていたり、食べてすぐ寝てしまったり、というだけでも要因としては十分だ。

女の子はテーブルに残してあったソーダを飲んでいたが
まずはお水をもらってきて勧めた。
お母さんがエチケット袋を用意する間に、私は乗務員に頼んで温かい緑茶を作ってもらう。
お茶をゆっくり飲んで気を紛らわすように話し、しばらくすると女の子が眠ったので、お母さんも私も一安心。

そして私とお母さんの会話が始まった。

ご主人の赴任で去年の夏からミシガンに住み、初めての一時帰国を終えて自宅へ戻るところだとのこと。
とても朗らかな方で程よい距離感でお話しできた。
名古屋から飛んでいるので驚かないが、お互いの出身地が近いため共通の話題もあり、他にも一時帰国の快適さやアメリカでの食生活、学校のこと、英語のことなどについて共感できるところがたくさんあった。

女の子は目が覚めるとすっかりよくなって、その後の朝食もモリモリ食べていた。
「おねえさんにもらったお茶のおかげです」などと言われてうれしかった。

こんな出会いもあるんだね。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。