Patience

旅の途中、飛行機まわりでいろいろあった。

たとえば預け入れのスーツケースが規定の重さを少し上回っていたときは、カウンターのお姉さんがオマケしてくれた。

普段使わない航空会社で、急に取ったチケットだったので、座席は狭く、真ん中席しか空いていない状況だったが、両隣のアジア人女性はほとんど寝ないタイプで、気遣いがあり、さほど苦痛ではなかった。

乗り継ぎ便に遅れが生じ変更を余儀なくされたときには、ゲート前でピリピリムードの中、プリンターが故障するなど弱り目にたたり目なお姉さんが機転を利かせて翌朝の直行便に振り替えてくれた。
プリンターが使えるカウンターへ移動する間に、「大変ですね」と声をかけると「いや、皆さんの予定を変えることになって申し訳ない」と言う。
「あなたのせいじゃないでしょ」と言うと「お客が皆あなたみたいだったらいいんだけど」と言われた。
クーポンを使って空港で夕食をとり、ホテルで一晩。
ゆっくりできた上に、翌朝は直行便でラクチンだった。

到着した空港ではスーツケースが出てこなかった。
旅程を変更して、荷物より私のほうが先に着いちゃったんだから、当たり前。
航空会社のオフィスへ行くと、なんだかバタバタしている様子だったので、気長に待つことにした。
担当のおばちゃんが出入りするたびに「ちょっと待っててね」「すぐ戻るから」と気にしてくれていた。

バタバタの理由らしい女性は特大の荷物を次々と、待ち構えていた運搬係に引き渡し、さらに次の荷物を待っているところだった。
おばちゃんは無線と電話とパソコンで、いっぱいいっぱいになっている。
女性が提出したらしい書類を手に、おばちゃんが私に向かって「こういう書類、持ってる?」と言うので、「いえ、これだけです」とタグを見せる。
おばちゃんは私には返事せず、「彼女はタグしか持ってないわ」と無線に告げる。
電話が終わったタイミングを見計らって、「あのー、これをスキャンしてもらって、今どこにあるかだけ教えてもらったら、そのあとどうするか自分で決めますけど?」と言ってみたが、「いま別の係員が来るから。彼じゃないとスキャンできない」とかで受けあってもらえない。
「本当にタグ以外の書類は持ってないの?」と聞かれたので、「あとは… 搭乗券ぐらいしか」と言うと「それよ、それを見せなさい」と言われた。
この場合、搭乗券は関係ないと思うけど。
機嫌が悪いんだから、しょうがないね。

しばらくして、別の係員が現れ、女性と私をチラッと見て、小声でおばちゃんに「1つしか来てないよ」と言った。
おばちゃんはため息をついて、「まずは来たものから片づけましょう」と、係員と一緒にターンテーブルの奥へ入っていった。

まもなく女性の“荷物”が現れた。
大型犬。
キューンキューンと心細そうに鳴いている。
犬の入っているケージに何か不具合があったらしく、おばちゃんはその点と、食べ物と水をケージの中に入れていなかった点について女性に注意していた。
んまー、こりゃ大変ね。
道理でバタバタしてたわけだ。

犬の引き渡しが終わり、運搬係が運んでいったのを見届けて、さて、私の番。
そろそろおばちゃんは交代の時間らしく、次のおばちゃんと一緒にオフィスへ入った。
おばちゃんは腰に手を当てて私に向かい、きっぱりと言った。
「あなたの方のはロストのようだけど、到着次第、自分でまた引き取りに来なくちゃダメよ。配達はできないから、動物は。」
へ?
「私のは動物じゃありません。普通の荷物です」と言うと、「なんですって?」
おばちゃんは私の搭乗券を指して、「ここに”FOOD FOR PUR”って書いてあるじゃない」と言う。
横に座っていた交代予定のおばちゃんが、ものすごく冷静な声で「それは”Food for purchase”(食品の機内販売あり)ね」。
「オォウ、てっきり”Food for puppy”(犬のエサ)だと思ってた!」
なんでやねん。

「もう今日は朝から遅延やキャンセルが多くて。その上さっきの犬のことで頭がいっぱいで。ごめんなさいね。」
笑。
「いえいえ、私ももっとはっきり言えば良かったですね」
それからおばちゃんはテキパキと宅配の手続きをしながら、「ブラシとか、お泊りグッズは要らない?」など気遣ってくれて、「本当にごめんなさいね」と何度も謝った。
おかげで私は身軽に帰宅。
スーツケースは夜になっておじさんが届けてくれた。
「重くてすみません」と言うと、「良い運動になったよ」と笑った。

“Thank you for being so patient.”とか言うけどさ。
こんなにいろんな人のお世話になって、親切にしてもらって、安全に快適に物事が進んでて、イライラすることなんて何もないじゃない、と思う。
みんなキミたちのおかげじゃん、と思う。

日本ではあいかわらず“お目が高い”お客様が流行っているようで、ちょっとした不快も見逃さないのがカッコいい様子だった。
あの感じからすると、彼らは親切なサービスに出会うことが少ないんだろう。

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