タクシー

知らない街で、タクシーに乗る。

学会に参加した後、会場である大学から駅へ。
交通手段が他にないのでタクシーを呼んだ。

現れたタクシーの運転手はいかにも気の良さそうなおっちゃん。
乗車するなり「もう終わったん?」と聞かれた。
「え、えぇ。えーと、終わってはいないんですけど、私は午前だけで切り上げてきました。」
「なんなん?英語の勉強したはんの?」
どうやらこの大学と駅の往復で、学会参加者を何度も乗せた様子。
「えーと、まぁ、英語の先生や大学の先生が集まる会ですね」
「はぁぁ。ほんなら、お客さんも英語ペラペラ?」
「いやぁ、ペラペラ… んー、まぁ、勉強中です」
と、すぐそんな感じのおしゃべりが始まった。

で、「どこに住んでる」という話になり、まぁ言っても別にいっか、と思ったので「アメリカです」と答えたら
「えぇ?お客さん、アメリカから来たん?」と、思いっきり振り返られた。
いやいや、前、前。
前、見て。

「なんやー、そんなん、もうペラペラに決まったあるやんか。アメリカで英語の先生かいな。ほんで朝から勉強に来て。お腹すいたやろ。」
おぉぉ、ぎゅんと展開が変わったね。
「そうですね。あ、そうだ。駅の近くでお昼どこか食べられるところ、ご存じないですか?」
「今日なぁ、あ、あんで。よっしゃ、連れてったろ。和食でええよな。」
「え?」
「中華もあるけど、和食でええよな。」
「え、はい。それはいいですけど…」
「よっしゃ」

そんな感じで、他にも聞かれるままにいくつかの質問に答えていたら駅が見えてきた。
で、手前の交差点を駅と反対に曲がってすぐのところで止まる。
「ここここ、ここ日替わりやってんねん。行っといで。」
ありがたい。

そして支払い。
あいにく小銭が少し足りず、「すみません、大きいのしかないので…」と言うと
「細かいの、もうええよ。釣りないし、これでええわ」と、取ってくれない。
「いやいや、じゃあお店でくずしてきますから、ちょっと待っててください」
「ええて」
「いや、そんなわけには」
「ええから、早よ行きて」
そんな感じで、小銭の分をオマケされてしまった。

お店は、地元の人じゃなければ、まして1人では入る勇気がなかなかわかないタイプのお寿司屋さん。
そろそろと引き戸を開けると、お座敷の夫婦2組、男女4人が、いかにもそれまでの会話を急に止めた雰囲気で、やや戸惑い気味に一斉に私を見たので私も戸惑った。
「あの、ランチ、いいですか?」と聞くと、「あぁ、どうぞどうぞ」とカウンター席に通された。
ちらし寿司と名物のセットを注文すると、一度は空気をかき乱した私の姿はすぐ透明になったらしく、男女4人はまた元通りに会話を再開し、テレビに反応したり、旅行の思い出を語ったり、家族をいじったりして笑いあった。

ランチは文句なく美しく、感動的においしく、あっさり完食。
白身が見慣れない雰囲気だったので大将に尋ねると、天ぷらでお馴染みの魚。
「ここらへんでは刺身で食べるんよ。関東では出すとこないから、珍しいでしょ」
あれ、私、関東から来たことになってる?

お会計をして小銭ができたので、タクシー代の不足分をいつも持ち歩いているぽち袋に入れて、おかみさんに事情を話し、もし運転手さんが来店したら渡してもらえないか、尋ねてみた。

おかみさん「お父さん、KタクシーのMさんやて。わかる?」
大将「Mさんて、こんな髪型の、こんな顔の?」
私「えぇ、たぶんその方です」
大将「背ぇそんな高ないよな?」
私「いや、それは運転していらしたので、わからないですけど」
そんなやり取りを経て、渡してもらえることになった。

なんの予備知識もなく初めて行って、もう行くことはないかもしれないけど、とっても素敵な街だった。

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