オンライン辞書

オンラインの英和・和英辞書について、ちょっとまずいなぁと思うこと。

私の生活に辞書は欠かせない。
特別な事情がない限り、辞書を引かない日はないと思う。
別に日課にしてるわけじゃないけど、日々普通に辞書を引く必要に迫られる。
日本語の辞書も英語の辞書も、英和も和英も使う。

子どものころは紙、その後、紙と電子の併用を経て、オンラインの辞書が加わり、ここ10年ほどはほぼオンラインだけを使うようになった。
使い勝手といい、価格といい、用例の追加や修正が常に施されている点といい、辞書という道具とオンラインは相性が良い。
私は言語を言語学習の文脈で扱うことが多いので、辞書に芸術性や味わいを求めない。
求めるのは、実用性のみ。
言語は常に動き、変化するのだから、それを敏感に察知し、学習に役立つかたちで対応できるよう、言語を収録するハコには柔軟で使いやすくあってほしいと思う。

自分で使う場合にも、学習者に薦める場合にも、オンラインに勝る辞書はないと思っていた。
いまもそう思う。
ただ、特に英和・和英辞書については危ういものが多く、学習者には気をつけて選ぶようにしてほしいと思う。

たとえば、私が長く愛用し、他の人にもお薦めしてきたオンラインの辞書の1つは、実は厳密には辞書ではなく、クラウドのデータベース。
しかし一般には辞書と認知されていて、私自身も”辞書”として使っても問題ないと思ってきた。

が、ここに来て、「あぁ、やっぱりこれは辞書じゃないんだな」と思わされることが多くなってきた。
日本語の誤字や英語のスペル間違い、文法の怪しい例文、誤訳など、学習の妨げになる情報が目立つようになってきたのだ。
こまめに誤植レポートをしていたこともあったけど、あまりにも多いので、やめた。

私は単なる1ユーザーなのでこれは憶測でしかないが、去年ごろからこの“辞書”は本格的な方向転換をして、収益を上げることに注力しはじめたのだと思う。
無料版に広告を増やし、動きを重くして、有料版への移行をあからさまに推進しはじめた。
もともと無料だったものに広告を増やして、広告主を“邪魔”よばわりし、その“邪魔”を取り除くことをユーザー向けの親切として売るというのは個人的にはどうかと思うけど、まぁよくある手だ。
それ自体は構わないので、私も有料に切り替えた。

有料になったぶん、学習アプリ的な機能が増えた。
確認していないけど、おそらく語数や例文数も増やしてきている。
それが彼らの考えるサービス向上なのだろう。

しかし、学習に使うという観点で見ればすべてが低下。
アプリ的な機能は他でやっているようなものばかりで新鮮味はないし、私が使えそうなものは見当たらないし、学習者に薦めたいようなものもない。
機能の根底にある“出る単”や“一問一答”式の考えに賛成できないので、真面目に学習を進めたい立場としてはむしろ好ましくないと思っている。

なにより重大な問題は、言語的な質の低下。
おそらく数を増やすため、利用しているコーパスに、英語としても、学習用教材としても適切でないものを、以前にも増して多く含むことになったのだろう。
扱う数が増え、この事業に関わる人の数が増え、そこには引用元や掲載後の質をチェックするほどの言語能力、特に英語力のない人をも含まざるを得なくなったのだろう。

こうして、「辞書としても使えるデータベース」は「ただのデータベース」になってしまった。
残念。

このデータベースを引き続き辞書的に使うためには、日本語、英語ともに高い能力とセンスを持っていることが条件となる。
つまり日本人英語学習者の中では少数派の、発信者の言語能力を踏まえて情報の取捨選択ができる人、「基本的に辞書は必要ないけど、念のための確認や、より良い表現を求めて複数の辞書や各種の情報源に当たる」というタイプの人には、まだ利用価値がある。
この暗黙の条件はもともとあったのだが、最近の変化を経て、以前よりもさらに“狭き門”になったと思う。
ただ、皮肉なことに“狭き門”をくぐれるほどの高い言語的感性がある人には誤りや不確かな情報がうっとうしく感じられるだろうし、そのくらいの力があるなら、他の道具を使ったほうがいい。
多少使い勝手が悪くなっても、もっと言語的に質の高いものを選んだほうがいい。

そこまでの日本語・英語の力がついていない学習者、つまり日本人英語学習者のほとんどには、このデータベースを使うことをお勧めしない。
アプリ的な機能のターゲットにされているのはこの層だと思うけど、彼らの能力ではこの玉石混淆のデータベースによって惑わされたり迷ったり間違えて覚えたりすることが増えるばかりで、学習には逆効果。
どこかの良心的な誰かが、本気で学習者のためを思って、信頼できる新たなサービスを提供してくれるようになるまで、当面は“ちゃんとした”辞書を使って学習を進め、一刻も早く“ターゲット層”から抜け出しましょう。
抜け出したら、このデータベースに手を出してもいいよ。
上述のとおり、他へ行くのをお勧めするけどね。

それにしても、残念。
英語学習産業が“カネのなる木”であるうちは、こういう残念なことが絶えないね。

学習者は自分の現在の能力を正しく測ってくれる人を見つけ、きちんとしたアドバイスに従って自分の身を守ることが、これからますます重要になってくるのだろう。
薬と同じように、英語の“教材”にも「使用上の注意をよく読み、用法・用量を守って正しくお使い下さい」「異常を感じた場合はすぐに使用を中止し、専門家にご相談下さい」って書いとかなきゃね。

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