外来語

日本人の知人に「郵便アドレス教えてください」と言われた。

「郵便アドレス」。
言うまでもなく英語の”Mailing address”を直訳したもの。
普通、日本語では「住所、宛先、送付先」と言う。

念のため、そういう言い方もあるのかなと思って、「郵便アドレス」というキーワードで検索してみた。
英→日の機械翻訳がかかったサイト以外では見当たらない。

これを取っ掛かりに、10代のうちにアメリカへ渡って以来、英語と日本語の混ざった生活をしている日本人の日本語力、さらに「ネイティブとはなんぞや」を語ることもできそうだけど、今日はそっちには行かないで。

語源辞典(参照)によると、’address’ はもともと”dutiful or courteous approach” (きちんとした姿勢)という意味で、その後”formal speech” (正式な話)を経て、1888年以降、”place of residence” (居住地)の意味になったらしい。

しかし、「’address’ =居住地」に違いなかった時代は過ぎ、今は ‘email -‘ ‘IP -‘ などと区別するために、住んでいる所の’address’ については’mailing -‘ をつけるようになった。

この動きは日本語の「電話」などもそうで、「携帯“電話”」ができたら「固定“電話”」「イエ“電”」、「スマート“フォン”」ができたら「ガラ“ケー”」というようにして、「どの電話か」を明らかにするために形を変えることになった。
新しいものが出てくると、それまで単独で通じていた語が通じにくくなり、別の語と組み合わせたり、言い換えたりする必要が生じる。
「『ケータイ』は持ってるけど『電話』は持ってない」という日本語が成り立つようになってきているし、ひょっとすると今後、「電話」という語は「『電話する』という動詞の一部」になって、名詞としての機能を終えるかもね。

一方、日本語の「住所、宛先、送付先」はいまだ健在。
バーチャルの方を「アドレス」と呼んで区別したために、リアルな居住地を表す語は形を変えることなく、軒並み生き残った。
「電話」も携帯できるタイプが登場したときに、「あっちは『フォン』」てことにしといたら、巻き込まれずに済んでたかもね。

Facebookの「友達」は「フレンド」の方がよかったと思うのは以前にも書いたとおり(参照)。
バーチャルの方も「友達」にしてしまったために、もともとの意味の「友達」を「リア友」と改名して区別する必要が生じた。

「電話」「友達」など、新しい意味を取り込んで意味を広げることを選択した語は、今後も時代の変化にいちいち巻き込まれて、そのたびに何らかの加工を施されることになるだろう。
一方、「住所」のように、新しい意味を容れず、外来語を使って“分家”することを選択した語は、この変化に伴う加工を外来語の方に一任しているので、今後も“本家”として影響されずに済みそうな気がする。
「外来語はけしからん!」と訴えを起こす人もいるみたいだけど、「『住所』が加工を免れたのは『アドレス』のおかげ」と考えてみたらどうだろう。

「家族」と「ファミリー」もそうかなぁ。
師弟関係などの「ファミリー」が定着して、血縁や婚姻に関わる「家族」の意味を脅かすことなく、棲み分けできているように思う。

もちろん微妙なところが多分にあって、素人の「かなぁ」という感覚だけではどうにもならない。
ここはひとつ、公共放送が威信をかけて、「外来語を排除したために、旧来の語の立場が弱くなった例」「外来語のおかげで、旧来の語を保守できた例」をまとめて、きちんとした資料を作っちゃいなよ。
面倒くさい訴訟の再発防止にもなるし、国民から尊敬を集めることもできると思うよ。
「変化の激しい時代、外来語こそが日本語を守っていくのです」と、外来語の新しい役割を発表するのさ。
やってみ?

‘telephone’ が初めて導入され、「電話」という語が発明された頃と今では事情が全然違う。
速度は上がり、量は増え、輸入手続きは荒っぽくなっているのだから、新語をやたらと訳して日本語に混ぜ込むよりは、外来語を利用して有標性を持たせつつ取り入れる方が現実的だし、それが旧来語を保存することにもなるのではないかと思う。
新語の中には短命なものも多い。
せっかく手間をかけて訳して植え付けても、すぐ枯れるかもしれないし、ただ枯れるだけでなく、枯れるまでに土壌を荒らしてしまうかもしれない。
有標化してあれば枯れた後の除外もしやすい。

そもそも問題は外来語じゃなくて、カタカナ語なんだよな。
この違いと問題の根深さを理解し、解決策を議論するためには、日本人の外国語力、とりあえずは英語力がもう少し上がらないと、話にならないんだよねぇ。

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